記録にしか興味ないダンジョンRTA走者、たまたま攻略ルートにいた人気配信者を助けてバズってしまう。S級ギルドからスカウト来るけど、俺は世界最速を目指す。

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 俺のRTAはなぜか評価されない

 ダンジョンRTA。

 それは、ダンジョン攻略の「速さ」を競う合うスポーツだ。


 ――カチっ!


 俺こと早川颯(はやかわかえで)はダンジョンのゲート前に置いたタイマーを止める。


「今日のタイム(記録)は1:09:16か……。昨日より3秒の更新だ!」


 ダンジョンRTAでは、たった数秒の更新のためにしのぎを削る。

 ここは渋谷ダンジョン。

 日本のダンジョンRTAでは、よく使われるダンジョンだ。

 俺は普通の高校生だが、学校帰りにRTAに挑戦していた。


「ちゃんと撮れてるかな……?」


 俺はなけなしのバイト代で買った、中古の配信用ドローンをPCに繋ぐ。


「うん。ちゃんと撮れてるな……っ!」


 俺はPCと配信用ドローンをリュックに入れて、ダンジョンのゲートへと向かう。


 (帰る前に、換金所に寄って行くか……)


 ダンジョン――そこに入る度に、姿を変える迷宮。

 20年前、突如、世界中にダンジョンが出現した。

 それと同時に、人類は「スキル」と呼ばれる異能に目覚める。

 ダンジョンには魔石と呼ばれる特殊な鉱石があった。

 ダンジョンの中に棲息するモンスターを倒すと、魔石を落とす。

 この魔石は、魔素というエネルギーがあって、それは人類にとって新しいエネルギー資源となった。

 また、魔道具と呼ばれる魔力を帯びたアイテムが床に落ちている。「魔法」としか言いようがないような、特別な力を発揮する道具だ。

 ダンジョンが出現してから、人類は、魔石と魔道具の獲得を目指してダンジョンに潜った。ダンジョンには危険なモンスターがたくさんいる。命がけだ。

 しかも、ダンジョンはまるで生き物のように、入る度にその姿を変える。

 そんな危険なダンジョンに潜る者たちは「探索者」と呼ばれた。


「魔石はあまり取れなかったか……」


 RTAは「速さ」がすべてだ。

 走る途中にある魔石や魔道具には無視して、とにかく速くダンジョンを攻略する。

 だが、いわゆる「縛りプレイ」で魔石を10個以上取るとか、特定のモンスターを倒すとか、装備なして挑むとか、そういうRTAもある。

 俺は「速さ」にしか興味がないから、攻略チャートに不要な魔石は取らない。

 ただ、配信機材を買うために必要最低限の魔石は取るようにしていた。


 (記録が大事だからな……)


 ダンジョンゲートを出ると、隣に換金所がある。

 コンビニくらいの大きさの建物だ。

 換金所は、ダンジョンで手に入れた魔石や魔道具を売却する場所。

 ダンジョン庁という政府機関が運営している。

 20年前に世界中にダンジョンが出現した時に、政府はダンジョン庁を設置した。


 換金所の受付には、探索者たちが列をなしていた。

 魔石の換金は、探索者たちの主要な収入源。

 探索者には、収入源がいくつかある。

 普通は、ダンジョン探索で手に入れた魔石の売却だ。

 他の稼ぎ方は――


「お! ダンジョン配信者のクロノちゃんだ!」

「めっちゃかわいい……っ!」

「しかもすげえ強いし」


 ダンジョン配信者アイドル――クロノちゃんのダンジョンLIVE配信が換金所にある大画面で流れていた。

 そう……最近流行っているのは、ダンジョン配信だ。

 探索者がダンジョン攻略の様子を配信する。

 その配信によって広告収入や、リスナーからの投げ銭をもらって稼ぐのだ。

 ダンジョン配信で「バスれ」ば、かなり稼げる。

 人気ダンジョン配信者をプロデュースする「配信者事務所」さえあった。


(まあ……俺には縁のない世界だけど)


「これ、換金お願いします」

「こ、これは……?」


 受付のお姉さんが驚く。


「……?? どうかしましたか?」

「あの、この魔石はどこで手に入れてきましたか……?」

「えっ? どこって、この渋谷ダンジョンからですけど?」

「そ、そうですよね……。少々お待ちください」


 受付のお姉さんは、俺の採った魔石を持って、オフィスの奥へ行ってしまう。


 (俺、なにかやかしてしまったのか……?)


 ただの石ころを魔石と称して売る、魔石詐欺が最近流行っているからな……


「おいおい。早くしろよ……」

「スーパーのセールに間に合わないだろ!」

「何してんだ! オラァ……!!」


 探索者たちは気性が荒い。

 ハイリスク・ハイリターンなダンジョン探索を仕事にしている連中だ。

 待たされることは大嫌いで。


 (早くしてほしいな……)


 俺のせいで、他の探索者を待たせているみたいだし……


「す、すみませんっ! お待たせしましたっ!」


 受付のお姉さんと、上司ぽっいオッサンが出てきた。

 名札に「渋谷ダンジョン所長」と書いてある。

 どうやらここで一番偉い人みたいだ。

 所長は、俺の採ってきた魔石を指さして、


「この魔石は……魔封石。あらゆる魔法を無効化するS級魔鉱石です。ドロップするのは、S級危険モンスターのキング・ミノタウロスしかいません。早川様は、キング・ミノタウロスを倒したのですね?」


「魔封石を換金だって……?」

「アイツ、キング・ミノタウロス倒したのかよ?」

「マジであり得ねえ」


 周囲の探索者たちがざわつく。


「まあ、【グダった】だけですね……」

「【グダった】とは……?」


 ついつい、RTA走者(廃人とも言う)の言葉を使ってしまう。

 RTA走者用語で、ミスしたことを意味する。

 もともと俺は、キング・ミノタウロスと戦うつもりはなかった。

 HPも防御力も高いから、絡まれたら【リセ】するのが普通。

 【リセ】は、リセットの略で、RTAを最初からやり直すことだ。

 しかし、それまでの記録を更新していたから、俺は諦めたくなかった。


 (結局、かなりグダってしまったが……)


「早川様の探索者ライセンスをは、C級探索者。キング・ミノタウロス討伐の適正ランクは、A級探索者以上のはずなのに……どうして倒せたのですか?」


「……キング・ミノタウロスは、まず右から斧を振り下ろしくるから、サイドステップで左によけて、脇にできた隙に剣を突き刺します。乳首と右上あたりに筋肉の腱があるから左に剣を動かして、腱を切断するんです。右腕が使えなくなります。キング・ミノタウロスは右利きだから、斧を奪って……まあ、キング・ミノタウロスと言っても状態異常が効くガバガバな脳筋モンスターですから、通常の探索なら麻痺や催眠が有効だと思うんですけど、時間がかかりますからRTA的には――」


「…………」


 所長と受付のお姉さんが顔が引きつっている。


(もしかして、俺、引かれてる……?)


 俺は最適化されたキング・ミノタウロス処理法を話しているのだが……

 俺は子どもの頃から1000回以上、渋谷ダンジョンに潜っている。

 RTAには練習は欠かせない。

 攻略チャートを確立し、何度も最適化された動きを訓練する。

 海外勢(基◯外とも言う)と、wikiやディスコードで情報交換しながら、もっともっと速くなる「攻略チャート」を開発するのだ。


「……わかりました。とりあえず、換金させていただきます」

「はい。お願いします……」


 俺がドン引きされた理由はわかっている。

 日本ではRTAが流行ってないことだ……

 RTAのメインは海外。

 俺のRTA配信のチャンネル登録者も、ほとんど海外勢ばっかりだ。

 だから記録を更新しても、再生数は2桁しかない……


 (ダンジョンRTAもっと評価されてもいいと思うのだが)


「早川様の探索者ライセンスに、300万DPをチャージしました」


 受付のお姉さんが、俺の探索者ライセンスを返してくれる。

 だが、俺は無視して、


「もっとRTAを広げるにはどうしたらいいか……」


 探索者ライセンスは、探索者がひとり一枚もらえる証明書だ。

 運転免許証みたいな、プラスチックの磁気式カード。

 DPは「ダンジョンポイント」の略で、1DP=1円の価値がある。

 ちなみに、国がダンジョン探索を奨励しているから、DPには税金がかからない。

 ――しかし、俺にとってそんなことはどうでもよかった。


(ダンジョンRTAをもっと流行らせたい……!)


「一瞬で300万円ゲットかよ……」

「俺の年収と同じだ」

「どこのギルドのヤツだろう?」


 探索者たちの中には、ギルドと呼ばれる会社みたいな組織を作るヤツラもいる。

 パーティーを組んで、難易度の高いダンジョンを攻略するのだ。

 高校生の俺は、まだどこのギルドにも所属していなかった。


  ★


 今日は土曜日――

 俺は新宿ダンジョンに来ていた。

 かつて「カブキチョウ」と呼ばれていた場所に、出現したダンジョン。

 俺は生まれる前だからよく知らないけど、昔は「夜の街」だったそうで……

 「レイワ女学園」だとか「コスプレナース」だとか、当時の看板の残骸がそこらへんに転がっていた。

 そんな街の真ん中にある「新宿北宝ビル」の跡地が、新宿ダンジョンの入口だ。

 ダンジョンが出現する前は、「北横キッズ」と呼ばれる(地雷系の)若者たちが集まっていたらしい――そんな話を父さんから聞いた。


 ……ま。そんなダンジョンの由来はどうでもよくて、俺はとにかく記録を更新したい。

 俺はダンジョンゲートで受付を済ませて、新宿ダンジョンに入る。

 RTAは1階層目の階段を降りてから、タイマーをスタートさせる。

 最深部へ行ってから、再び1階層目に戻ってくる。

 1階層目の階段を登り切ったら、ストップだ。


「よし……っ! タイマースタートっ!」


 俺は走り始める。

 俺の背後を、配信用ドローンがついてくる。

 RTA専用サイト「DungeonRta.com」で配信中だ。


 (RTA走者しか見ない過疎サイトだけどな……)


 今日こそ新宿ダンジョンの記録を更新するつもりだ。

 新宿ダンジョンの1位保持者は、海外勢のJESS(ジェス)だ。

 俺のRTA走者仲間で、よくディスコードで話す。

 どこの国の人か知らないけど、俺とJESSは張り合っていた。

 こないだ、JESSが俺の記録を塗り替えたから、

 今度は俺が、JESSの記録を塗り替えるわけだ。


 (性別は男だと思うが……)


 女の子でRTAするヤツは少ない。

 もしもJESSの中の人が、ロシアの銀髪美少女だったら嬉しいけど……


「Good luck!」


 JESSが配信にコメントをくれる。


「サンキュー!」


 俺はドローンに手を振った。

 今のところ、配信を見ているのはJESSだけだ。


 (仕方ないか……RTAなんてマイナーだし)


 ダンジョン配信者たちみたいに面白くもないし。

 ただ最速でダンジョン攻略を目指すだけだから……

 何度も新宿ダンジョンに潜って作った攻略チャート。

 最適化されたルートだから、ガバなしで知れば新記録が出る。

 俺は1階層目の階段を降りて、2階層目へ入る。 

 その時だった――


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 女の子の悲鳴がした……!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★あとがき


この話は連載候補です。


「続きを連載して欲しい!」

「ちょっと面白いかも!」


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