第14話
鼓膜を震わせるほどの轟音で叩き起こされるなり、女は目と鼻を襲う刺激臭で咳込んだ。
涙がとめどなくあふれて来るので、自分がどこにいるのかわからない。縛られて床に転がされていることはわかるが、それ以上のことはわからなかった。
「げほっ……だ、誰か……」
女は、頭痛と焼けるように熱くなった胸の苦痛に耐えながら、助けを呼んだ。
だが、声はまともに出なかった。それ以降に口から出たものは、堰と吐瀉物だけ。時間が経つにつれて、女を襲う苦痛は勢いを増していた。
ついに呼吸すら困難になった女の頭には、過去の出来事が次々と浮かび上がり、消えていった。
「これが、走馬灯か」
もし声が出せていたなら、女はそう言っていただろう。
他人事のように自らの死を感じながら、女は走馬灯に見入った。
両親の離婚に、父の再婚。最初こそこちらの顔色をうかがうように話しかけていたのに、いつの頃からか我が物顔で家を練り歩くようになった継母に反感を覚えたこと。継母の連れ子であるあの男を、どうしても弟だと思えなかったこと。自分と同じようにあの男を嫌っていたはずの姉が、実はあの男と恋仲だと知った日のこと。夫にプロポーズされて、嬉しくて泣いてしまったこと。子供を産んだ日のこと。子供が就職し、肩の荷が下りたと感じた日のこと。姉に、遺産のことを相談されたこと。あの男も来ること。兄が殺されたこと。遺産の取り分が増えたと、ほくそ笑んでいる姉を見てしまったこと。兄の死を受け入れられず、散歩をしながら夜風に吹かれて、気持ちを整理しようとしていたこと。
その最中に意識が途切れたことを。
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