SCENE 36:限界
(——……)
輝きに包まれた時、コウイチは機体と自分のズレが消失し——『何か』と繋がるのを感じた。
右手の紋章は暴走するように光を放ち続け、コウイチの瞳は危険なほどに、赤く輝いていた。
コウイチは『時間がない』ことを本能的に悟り、くるりと振り返った。
すぐそばまで、引き返してきた巨大昆虫の第一波が迫ってきていた。
しかし、光線は着弾と同時に——コウイチの纏う赤い輝きに吸い込まれるようにして——消えた。
そんな事象に惑う虫達の間隙を突くように、コウイチは腰だめに構えていた
宙域に無数の青い光球が咲き、残骸の中にふよふよと赤い光が漂っている。
(…………!)
コウイチの機体がバッと手を伸ばすと、赤い光が引き寄せられていき——腕を通し、機体の中に沈んでいった。
全ての赤い光が機体の中に沈んだ直後、機体がブルブルと震えたかと思うと、宇宙を感じるように四肢を目一杯広げた。
瞬間、輝きを増した赤い光が機体から噴出した。
部屋から明かりが漏れるように、機体の装甲の隙間やバイザーから光が噴き出す。
それはまるで、機体が喜びに震えているようであった。
光の噴出を終えた拡張人型骨格はピタリと動きを止め——ゆっくりと正面に振り返った。
既に陣形の一部を解除し、コウイチの元へと向かっていた虫達が、無数の青い光線を放つ。
しかし、拡張人型骨格の纏った赤い光に吸収されるだけだった。
虫達はアイコンタクトするように目を輝かせると、凶悪な前脚を振りかぶりながら四方八方から殺到する。コウイチが再び、腰だめに
——その瞬間、致命的な痛みがコウイチの身体を貫いた。
(——……!?)
それは、肉体的な痛みではなかった。
何かが——自分の大切な何かが欠けていくような、そんな感覚が『痛み』として出力されていた。
手がガクガクと震え、視界が自身のものと拡張人型骨格の視点とで揺れ、胃が引き絞られるような不快感に襲われる。
急激に纏う光の量が減り、動きを止めた拡張人型骨格を見た虫達が殺到する。
「——ッ!」
朦朧とする意識の中、左腕の
直後、複数の虫達による刺突攻撃が強烈に突き刺さった。
半壊した
数キロメートル飛ばされた時点で重力場で急制動をかける。
激しい警告を鳴らす本能を無視し、再び赤い光を機体に纏わせる。
「——あァッ!」
向き直るや否や、眼前に迫った虫を長い右足で蹴り止めると、そのまま半壊した
その後ろに迫っていた虫達をすれ違い様に切り捨てながら、突入点の宙域へと戻っていく。
背中に幾本もの光線が突き刺さり、焼け爛れていく。
もう時間はない。
数十秒後にはマグナヴィアが到達し、裏宇宙へと突入する。
しかし、突入点付近の虫達は残ったままで、重力場も展開されたままだ。
コウイチは瞑想するように、目を瞑った。
そして、繋がっている『何か』に告げた。
(……どうでもいいから……寄越せ!)
次の瞬間、機体から赤い光が猛然と噴き出した。
「——ぬ」
コウイチは半壊した
その間も虫達は拡張人型骨格を落とそうと必死の攻撃を続けているが、光の柱の栄養源となるだけであった。
そして、線はやがて束となり、全長数十キロメートルの巨大な光の柱となった。
「——あァッ!」
コウイチは飛びそうな意識を呼び覚ますように叫び、それを振り下ろした。
突入点付近を陣取っていた虫達は機敏な動きで重力場を解除、散開したが、振り下ろされた光の柱の余波に巻き込まれ、何匹かが消滅した。
その直後、マグナヴィアが青い輝きを纏わせ、あたり一面を照らし——虫達のいなくなった空間に、巨大な穴を発生させた。
裏宇宙への突入点だ。
ねじ込むように、マグナヴィアは突入点へその船体を突っ込ませた。
ズズズ、と徐々に船体が異空間へと飲み込まれていく。
その様子を、わずかに開いた目で眺めながら、コウイチは自身の意識が消えていくのを感じた。
背後から迫る物体を感知しながらも、コウイチは指一本動かすことも出来なかった。目の前で、帰るべき
(確かに……やったぞ……俺は……母……さん……)
コウイチの意識が消えるのと、マグナヴィアが裏宇宙へ消えたのは、ほぼ同時だった。
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