SCENE 27:異常
「——操船プログラムの組立、終了だ」
艦橋室にレイストフの声が響いた。
その報告は、先行きの見えない作業にあたっていた生徒会のメンバーにとって、喜ばしいものであった。
「本当か!」
「お、マジ?」
作業に辟易していたダミアン、ラフィーの二人がまず反応し、次にティアナとクロエが、最後にはルーカスもレイストフの元に集まった。
6人が一様にレイストフの制御盤を覗き込む。
そこには、組み立てられた操船プログラムの
レイストフの示した
「——さすが会長殿。仕事が早い」
「うむ、これは私も認めざるをえまい」
ラフィーとダミアンが腕を組みながら調子良く感想を述べる。
レイストフはその二人の感想を取り合わず、傍にいたルーカスに問いかける。
「他の作業進捗度は」
「95%までの進捗を確認しています。後1日もあれば終了するかと」
ルーカスが端末を確認し、素早く答える。
その進捗度は、レイストフとルーカスの立てた進捗予想時間よりも20%ほど早いものだった。
「……早いな」
「どうも、各学科に優秀な人材が隠れていたようです」
ルーカスはリストアップした優秀な生徒のデータをレイストフに見せた。
そこには、学校生活では目立たぬ成績、もしくは問題行動によって減点されたものの、優秀な能力を持つ生徒達の名前が並んでいた。
「そのリスト、俺に送っておけ」
「承知しました」
二人が密やかに会話している脇で、ダミアンが安堵の息を吐いた。
「これでマグナヴィアは出航できるんだな! 我々は、助かったのだな!?」
そう涙を浮かべながら喋るダミアンに、他の面々が溜息をつく。
誰も突っ込まないため、クロエがおずおずと声をあげる。
「……肝心の
「え……ああ……」
もじもじと自身の黒いおさげ髪をイジりながらのクロエの発言に、ダミアンは先ほどまでの喜びは何処へ、しゅんと肩を落とした。
そう、今回完成したのは通常空間の航行に必要な操船プログラムの方だ。
裏宇宙航行システムの大前提とも言えるもののため、順番としては間違っていない。
「会長、裏宇宙航行プログラムの方は?」
ラフィーがレイストフに尋ねる。
裏宇宙航行プログラムはレイストフが自ら担当すると告げたのだ。
最も、告げるまでもなく裏宇宙航行システムは複雑すぎてレイストフ以外には解析も組み立てもできないのだが。
そんなラフィーの質問に、レイストフは僅かな逡巡を見せた。
「もう少しかかる」
「そか。まあ、気張りすぎんなよ、会長」
ラフィーは呑気にそう告げると、自席に戻りアイマスクを取り付けた。すぐに健やかな寝息が聞こえてきた。
その様子に、ティアナが苛立ちを隠さずに睨みつける。
「全く……それで会長、裏宇宙プログラムの解析に何か問題でもあるのですか?」
ティアナはレイストフの僅かな逡巡を見逃さなかった。基本的に明朗な受け答えしかないレイストフにしては、違和感があった。
「問題はない。最終確認の作業に移ってくれ」
しかしレイストフは淡々と告げ、その場の解散を指示した。
「……承知しましたわ」
ティアナが不満顔で自席に戻っていった。
それにクロエが続き、ダミアンも肩を落としながら戻っていった。
レイストフの傍らには、ルーカスが残った。
自分の席に戻る気配はない。
「……何だ」
レイストフはルーカスを睨みつけた。
しかし、ルーカスは全く気にした様子もなく訪ねた。
「どんな問題なんです」
「…………」
レイストフは諦めた。
5年近くもそばにいたルーカスには、見抜かれていたらしい。
「……これを見ろ」
レイストフがあるウインドウを表示させる。
そこには、先ほどと同じプログラムの立体置換図——裏宇宙航行プログラムだった。
それは先ほどの操船プログラムと同様、球形に近い形をしていた。
「これは……ほぼ完成していますね」
「ああ——だが」
立体置換図の上面に『
「……原因は」
「
星海図とは、
宇宙、特に恒星系間を航行する際には必須とも言えるもので、航宙艦マグナヴィアにも星海図が挿入されていた。
星海図は、極めて正確なものだ。
時間同期で恒星系の光量や惑星の周期、あらゆるデータを常に更新、自己修正を続けながらその正確性を担保するのだ。
だがその星海図に、誤差があるという。
「レイストフ様、これは一体……」
そうルーカスが質問を続けようとした時——ポーン、と甲高い通知音が艦橋室に響いた。
音は、クロエの担当する制御端末からだった。
「……何の音だ」
レイストフがクロエの告げる。
だがクロエは眉根を寄せて困惑するだけで返答しない。
「クロエ! 何の音ですの?」
ティアナの叱責で、クロエが我に帰った。
「あっ……そ、それが……その……」
混乱したクロエの様子に、レイストフ他、メンバーがクロエの制御盤を覗き込んだ。
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