SCENE 24:生活
ローバス・イオタ学園層付近。
星々が浮かぶ宇宙を背景に、数十機の
整備科の生徒達を中心に、外壁付近の
そしてローバス・イオタの外壁の脇に、小判鮫のように浮かんでいる航宙艦がある。それが、学園層地下に眠っていた巨大航宙艦マグナヴィア号である。
生徒会の演説で語られたレイストフの計画。
それは『学生達で
これに賛同した学生達は、生徒会の作成した出港作業計画に基づき行動していた。
その作業開始から、早くも1週間が経とうとしていた。
*
ペダルを踏み込み、逆噴射をかける。
ぐぐぐ、と身体を包む慣性重力に抗い、宇宙作業機を停止させた。
次いで強化プラスチックの窓越しに、ローバス・イオタ外壁付近に浮かぶマグナヴィア号を見た。
全長1000メートルを超える巨大航宙艦は、宇宙で遠くから見ると巨大さがより際立って見え、ずんぐりとした生物的な曲線を描く円筒状のフォルムは、星々の光を受けて鈍い光沢を放ち、その装甲の重厚さを物語っている。
船体は前方から後方にかけての半分ほどの場所で、くびれのように少し細くなり、滑らかな曲線を描いて太さが戻る。船体の後部に当たる部分には魚のヒレを連想させる4つの
地下での攻防の時、あの感知尾翼の影に隠れていたのが記憶に新しい。
あの時は至近距離にいたために、その巨大さを正しく認識は出来なかった。
そうやってマグナヴィア号を眺めていると、『鋼鉄の鯨』とも言うべき風態に、コウイチはぞくりと恐怖した。
人は巨大な物体に本能的な畏怖を感じるというが、コウイチの感覚はまさにそれだった。
1000メートル級の航宙艦を初めて見たわけでもない。
だが、あの航宙艦マグナヴィア号の正体は依然として分かっていない。
どこの所属の船なのか。
どんな目的で建造されたのか。
何もかもが不明なのだ。
マグナヴィア号が人に与える恐怖感には、そんな部分が強く影響している気がした。
ぼうっと眺めていると、マグナヴィアの後部にコンテナを抱えた宇宙作業機が侵入していくのが見えた。
学園層の物資を、マグナヴィアに運び込んでいるのだ。
地下ドックの格納庫に用意されていた物資は、あくまで航宙艦の整備や補修に使うものばかりで、食料や生活用品がまるで用意されていなかったのだ。
そして、食料などの物資に限らず、学園層にある私物の回収も許可された。
今、ローバス・イオタに大人はいない。
現在学生達を動かしているのは、生徒会だ。
レイストフの演説以降も生存者の捜索が行われたが、見つかったのは新たな教官達の死体と、瓦礫の山だけだった。
崩壊した学園に、謎の航宙艦、学生だけ。
異様な状況下で、ストレスを少しでも和らげようという意図が、レイストフの私物の回収という指示に含まれている気がした。
レイストフは生徒会長として出港作業の統括を行うだけでなく、そういった生徒達のメンタルケアまで意識して行動していた。
「……チッ」
能力の違い。
そんな単純でどうしようもない劣等感が、コウイチの胸に広がった。
アカデミーフロアの喧嘩騒ぎの時。
マグナヴィアの内部で会った時。
コウイチを見るレイストフのあの目が、コウイチを惨めな気持ちにさせるのだ。
『——コウイチ!』
曇りかけたコウイチを、通信機からのモリスの声が我に返らせた。
窓の外を見ると、左右に宇宙塵を抱えたモリス、サドランが
『——サボってんなよ!』
『コ、コウイチ君、班長が怒ってたよ!』
「……今行く」
苛立ちを隠しながら、コウイチは作業機を再度、飛び立たせた。
*
マグナヴィア艦内の食堂で、アイリは、タンテやマニと共に食料配給の準備を行なっていた。
(…………)
アイリは自動調理器に食材を放り込みながら、ちらりと視線を走らせた。その先には、食堂の隅に腰掛けている銀髪の少女が椅子に腰掛け、ぼうっとしている。
コウイチが連れていた少女——シーラだ。
アイリからコウイチに、身柄を預からせてほしいと頼んだのだ。
なんだか放っておけない雰囲気がある、とふんわりとした理由で二人には説明したのだが、実際の理由は『コウイチが連れてきた女の子』という一点にある。
コウイチへの事情聴取によれば『気が付いたらいた』とのことだが、さすがに信じる訳にはいかない。
コウイチが彼女との出会いの経緯を渋る理由は分からない。
だがコウイチ自身、彼女のことをよく知らないというのは、本当のような気がした。
そしてこれは、アイリの想像、というより妄想に近いのだが。
まず見たことのない容姿に、記憶喪失。
学園を襲った異常と彼女の出現タイミング。
単なる不思議ちゃんで済ませるには、要素が揃いすぎている。
コウイチはそこのあたりを隠したがっているのかもしれないが、おそらく生徒会の面々——特にレイストフは気づいていることだろう。
だが現状での最優先事項は、半壊したローバス・イオタからの脱出。
つまり、マグナヴィアの出航である。
謎解きは後回しだ。
しかしそんな理屈とは別に、『コウイチが連れてきた』と言う一点が、アイリの思考を堂々巡りへと誘う。
(……結局、どうゆう子なんだろ)
アイリはぼうっと宙を見つめているシーラを見て、深くため息をついた。
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