SCENE 21:調査

 調査隊は、結果的に10名が参加することになった。


 生徒会のティアナ、クロエ、ルーカス、ラフィー、ダミアン、アイリ、モリス、フォード、ラッセル、ジープ。


 生徒自治会のメンバーが参加するのは自然な流れだったとして、意外だったのはフォード達も調査隊に志願したことだ。


 外の様子がわからない今、外に出るのは相応の危険がある。

 正直な所、アイリはフォードは口だけだと思っていたため、意外であった。


 モリスは『馬鹿に貸しを作りに行く』などと強がって見せたが、コウイチを探しにいこうとしているのは明白だった。


 サドランは、5人兄弟の長男であり、幼い弟達の面倒を見なくてはいけないから、と申し訳なさそうに辞退した。


 タンテとマニも共に行くと言ったのだが、アイリが押しとどめた。人数が多すぎても捜索に賭けるリスクが高くなりすぎるためだ。


 そんな訳で、生徒自治会、アイリとモリス、フォード達の三手に分かれ、シェルターの外へと向かった。


 アイリは、コウイチを捜索する。


 レイストフまで行方不明だったことは、アイリに少なからず動揺を与えた。

 なんでも卒無くこなすレイストフが、下手を打ったとは考えられなかったからだ。


 本当はレイストフの捜索にも加わりたかったのだが、副会長であるティアナに、レイストフの捜索は任せて欲しいとキッパリと断れてしまった。


 実際、二人以上を同時に捜索するのは不可能だったため了承した。


 アイリは、遭遇した謎の武装者達を報告したが、副会長はその存在を既に知っていたようで、それとなく他の調査隊にも注意を促した。


 つまり、あれは見間違いでも幻覚でもない。

 敵がまだ潜伏している可能性もあると言う訳だ。


(コウイチ……)


 アイリは緊張で力む身体を抑えるように拳を握ると、シェルターの外へと出た。



 *



『ひどいな……』

『…………』


 モリスが作業用宇宙服ハードスーツの通信機にポツリと漏らした言葉に、アイリも無言の同意を返した。


 アイリは眼下に広がる光景が、つい数十分前までの学園の風景と、どうしても噛み合わなかった。


 学園層は完全に動力を失ったのか、ほぼ完全な暗闇に包まれ、重力も完全に消失していた。


 昼食をとったり、談笑していたはずの中庭は幾本もの大きな亀裂が入っている。

 彼らを育んできた校舎も、今や瓦礫と鉄塊に分かれて、土砂と共に宙を漂っている。


 瓦礫と土の漂う死の空間、それが今の学園層の現状だった。


 学園層の天井——宇宙港層の床にあたる部分も、数百メートルの巨大な亀裂が幾本も走っており、その隙間からは宇宙の星々がうっすらと見えた。


 宇宙港層がまるごと消滅していることを、他の班からの報告でアイリ達は知った。

 そこにいたはずの人達がどうなったのかは、考えたくなかった。


 目の前の惨状は、アイリのそんな不安を加速させた。


(二人共……お願いだから、無事でいて……)


 アイリは姿勢制御装置エアスラスターを噴かし、辺りを見渡す。


 かれこれ十数分は捜索しているものの、幸か不幸か、見つかるのは瓦礫ばかりで、人もも見つかっていない。


 その時、モリスから通信が入った。


『——アイリさん、コウイチと最後に連絡を取ったのは?』


 モリスの声に、荒かけていた思考が理性を取り戻し、アイリは記憶を探り始める。


『ええと……昼過ぎあたりに、一緒に学園層に降りて……』


 フォード達に絡まれて、それっきり。

 そう言おうとして、アイリ自身でその間違いに気づいた。


 ——違う。

 確かに会ったのはそこが最後だが、連絡を取ろうとして。


(そうだ……)


 アイリは作業用宇宙服の右腕の液晶端末に、自身の個人端末パーソルのデータを表示させる。開いたのは連絡機能メッセージ


 記録を遡ると、避難時に『旧校舎に向かう』旨を伝えたメッセージは、『開封』を示すマークが記載されていた。


 コウイチは、このメッセージを読んでいる。


(まさか……)


 アイリは方向転換すると、姿勢制御装置を強く噴かし、旧校舎の方へと向かい始めた。


『——アイリさん!?』


 アイリの位置情報が急激に動いたことに、モリスが驚きの声をあげる。

 アイリは動きを止めずに通信で早口に告げる。


『旧校舎にいるかもしれない!』

『ええ!?』


 アイリの手短な言葉を理解したのか、モリスも特にそれ以上は聞かず、アイリの軌道に追いつくように速度を上げて追随してきた。


 追いついてきたモリスと共に飛ぶこと数分。

 アイリとモリスは、旧校舎に——に辿り着いた。


『…………』

『なん……だ……これ……』


 モリスは、目の前の光景に呆然とする他なかった。


 旧校舎があったはずの場所には建物はなく、何かで撃ち抜かれたような直径二百メートルほどの大穴が空いていた。


 穴は暗く、底は見えない。


(こんな……)


 どこかで避難しているとか、そういう次元の話では無かった。

 もし本当に旧校舎にコウイチがいたのなら、これは——。


 モリスは、友人コウイチの生存に対して絶望的な気分に陥っていた。


 しかし、アイリは折れていなかった。


『モリス君、他の人達に連絡をお願い』

『えっ?』


 アイリはモリスにそう告げると、姿勢制御装置を強く噴かし、躊躇なく大穴の中へと飛び込んでいった。


 モリスが文句を言う間も、止める時間も無かった。


(……あの勝手な感じ、コウイチと似てるな)


 モリスは『旧校舎で発見した大穴を調査する』という旨の文面を手早く作成し、他の調査隊の面々に向けて送信した。


(お前が反抗期してる理由、分かった気がするよ……)


 心の中で友人に同情すると、モリスもアイリの後を追い、旧校舎の大穴に向けて飛び込んでいった。

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