第23話 国際デート8〜変わりものロシア人〜

僕がアフリカにいた時、リフレッシュ休暇でスペインに行くことができた。


スペインには以前気になっていた女友達がいたため、その友達に会いに行ったのだが、友達は用事があるとのことで結局1日しか会うことができなかった。


スペインでもTinderをやってみた。


アフリカとは正反対でほとんどマッチしない。


『まあ、こんなもんだろ…。欧米圏では基本マッチしない。運良くマッチしても同じアジア人くらいなものだ。』


イギリスやアメリカでは泣きたくなるほどマッチしなかったものだ。


しかし、スペインでは他の欧米諸国と比べてそれなりにマッチした。


メッセージのやり取りが続かずに終わった人たちが多かったものの、スペイン人2人、ロシア人観光客1人、コロンビア人1人とマッチし、それなりに仲良くなった。


まず最初に会ったのはロシア人だった。


年齢は確かプロフィールに載っていなかった。


写真だけ見ると真面目そうな女性で少し歳上といったところだった。


背が低い僕としてはできるだけ背の高くない人

と会いたい。


そんな僕にはぴったりで、小柄な女性だった。


太っているわけではないものの、顔が何となく楕円形というか長方形っぽいというか、少しガチっとした輪郭の女性。


美人というよりは愛敬のある可愛らしい人だ。


正直、そこまで好みではなかったが、メッセージは1番活発で、本人も旅行者だからぜひ会いたいと言われて会うことになった。


会ったのはスペイン2日目の夜だった。


広場で待ち合わせたのだが、僕の観光と買い物が予定より早く終わり、少し早めに待ち合わせ場所で待っていた。


周りが花火で遊びだしたため、僕も無料の花火を受け取って遊んでいた。


写真と同じ女性を見かけて声をかけた。


花火で遊ぶかと聞いたが、興味なさそうだったので僕らはその場を駆け足でさった。


正直、花火で女性と遊んでみたかった…。


だってなんだかロマンチックじゃん?


彼女の名前はナタリー。


年齢は最後までわからなかったが、アプリにあった写真より少し年老いていて、多分30前半だったのではないかと思う。


案の定背は低く、僕より5センチは低かった。


メッセージではきれいな英語でコミュニケーションをとっていたのだが、会話は単語を繋げてコミュニケーションを取るのが精一杯。


どうもメッセージでは翻訳ソフトを使っていたようだ。


そんなことだから会話には余計に時間がかかったのだが、お互いの自己紹介は問題なくできた。


彼女はわりと富裕層のようで、数ヶ月おきにヨーロッパを1人で旅行しているというのだ。


彼女はあまり話す方ではなかったので、僕がなんだかんだて話したり積極的に質問をすることで変な間をあけずにすんでいたと思う。


ひとつ、不思議な質問を受けたことを覚えてる。


「あなた、ホテルに泊まってるの?それともアパート?」


「?ホテルだよ」


「そう、私はアパートよ」


それ以上何か聞かれるわけでもなく、言うでもなくこの話題は終わり、不思議なことを聞くもんだななんて思っていた。


その後何もなく解散したのだが、ナタリーからは毎日昼飯や夕食のお誘いを受けた。


僕は海外では、1人でレストランに入るのが億劫なほどシャイでびびりなため、このお誘いは嬉しかった。


特に会いたいわけでもなかったが、次の日のお昼もナタリーと一緒に食べることにした。


とりあえず適当ないかにも観光客をターゲットにしたようなパエリア屋さんに入った。


すると、「あの人はロシア人だわ」とシェフを指差して言った。


『わかるもんなんだなあ』なんて黙っているとナタリーは立ち上がってロシア人シェフの元に行った。


するとあまり話さない彼女がロシア語ではマシンガントークをするではないか。


挙げ句の果てにゲラゲラと大きな声で笑っていた。


てっきり僕と同じシャイな人かと思ったのだが、今見かけただけの知らない人にあそまで話せるのかと驚いた。


結構な時間待ったと思う。


「ごめんね、久しぶりにロシア語話したから嬉しくてつい…」


「いや、まあ、いいけど…。何話してたの?」


「くだらないことよ。どこから来たとかどれくらいここにいるのかとか。」


『ありきたりな会話であそこまで盛り上がるのか…。』


やっぱり言語の問題のようで、店を出るとナタリーは再び物静かになった。


特にすることもなかったので、2人で散歩をしたのち、解散した。


しかし、その夜、ナタリーからまたご飯のお誘いが来た。


その夜はアプリでマッチしたスペイン人女性と会っていたため、会うことはできなかったのだが、気づくとメッセージと電話連絡を何度ももらっていて少しひいてしまった。


次の日のお昼、再びナタリーからお声がかかった。


しかし、この時はアプリで知りあったコロンビア人女性とデートした後、別のスペイン人女性とデートをしていた。


そのため、ナタリーとは夜ご飯を一緒に食べることにした。


夜適当な場所で夕食を食べ終え、僕はそのまま解散しようとした。


「じゃあ、帰るか…」と言おうとした瞬間、ナタリーは会話を始めながら歩き出した。


内容はよく覚えてないが、珍しくナタリーがひたふら喋っていた。


僕は当然のようにそれを聞くしかなく、やむなくナタリーの横に並んで話を聞きながら歩いた。


ナタリーの歩む道は僕が泊まっていたホテルと正反対だった。


『まあ、軽く散歩して別れられるだろう。めんどくさいけど付き合うか…。』


なんて思いつつ歩いていたのだが、どんどん観光地から離れていった。


結構な時間を歩いていたため、僕はどこまで行くのか、きちんと帰れるのか不安になったと同時に、あまり人通りも多くないため、このままナタリー1人夜道に残すのも危ないと思い、僕の足はナタリーの向かう先にわせて前に進んでいた。


あるところまで来ると、ナタリーの足が止まり、僕の足もつられて止まった。


なぜだか自信に満ちた笑顔を僕に見せながら「ここ、私のアパート」と言われた。


なかなかおしゃれなアパートだった。


リノベーションされたようで古い建物でありながら一部をガラス張りの外観にしていておしゃれだった。


僕はこの時何をしたらいいのかわからなかった。


これは誘われているのか、あるいはただ見せたかったのか。強制的に帰りの道をエスコートさせられただけなのか。


よくわからないので、僕はよくわからない行動をとった。


「出会いの記念に写真を撮ろう」


ナタリーもなんで?という顔をしながら僕らはとりあえず写真をとった。


そして僕は「じゃ、おやすみ」と言ってそそくさとまた来た道を戻った。


地図を開いて何となく帰り道を覚えて、足早に帰った。


道中、なんで僕はナタリーのアパートまで行かないといけなかったんだということをひたすら考えていた。


途中立ちんぼの客引きのおばさんに「女を買えー!」と大声で叫ばれつつ、袖を引っ張られるというトラブルに遭いつつも、何とか無事にホテルにたどり着いた。


『こんな服まで伸ばされて、散々だな』


次の日もやっぱりナタリーから連絡が来た。


昼の食事はスペイン人女性と約束していたため、お断りした。


夜、それも結構遅い時間になって再びナタリーから連絡が来た。


この時からご飯の話はなかった。


そもそも遅すぎてクラブとかバーとかしかやってないのではないかという時間だった。


僕は食事を済ませていたため、断った。


6日目、この時はお昼のお誘いがなかった。


やることもなくなっていたためこういう時に誘ってくれよと思いつつ、適当に過ごした。


夜になるとやっぱりナタリーから連絡が来た。


『まあ、これが最後の夜だ。1人で寂しくご飯を食べるより、誰かと食べるか』


そう思って、夜に会うことを了承した。


了承したのが失敗だったのだが、その後のメッセージのやりとりの中で、夕食をナタリーの借りてるアパートで一緒に食べようというではないか。


どうもナタリーが手作り料理をご馳走したいらしかった。


『これはやっぱり誘われてるのか?誘われてもこの人あまり好みじゃないんだよな…。まあ、でもロシアの家庭料理は気になる。』


そんな感じでモヤモヤしながらもナタリーのアパートのピンを送ってもらい、アパートへ向かった。


途中、手ぶらでは申し訳ないと思い、スーパーでワインを買った。



僕は次の日の昼の便でスペインを出ることを伝え、あまり長居する気はないとも連絡した。


いざ彼女のアパートに着くとほとんどの料理は準備が終わっていたもとと、まだ終わっていない料理もあったようで、しばらく待った。


『できることならサッと食べてサッと帰りたかった…』


ソワソワしながら待った。


ようやく料理ができるとなかなかこれが美味しかった。


冷たいサラダや温かいスープ。

出来合いのものも合わせてなかなかの品数だった。


一通り食べ終わるとナタリーに見つめられていることに気づいた。


お酒が入って少し赤くなった顔が少しエロかった。


『明らかに誘ってという目だ…。これはご馳走になってしまった以上、誘うべきか…?』


僕はかなり迷っていた。何しろあまり好みではない。やるなら好みのスペイン人女性とやりたい。


モヤモヤしながら僕は誤魔化した。


「明日出発だからそろそろ行こうかな」


するとがっかりした表情の彼女。


何だか悲しそうな表情を見て申し訳なくなってしまった。


「それとも僕にもう少しここにいてほしい?」


突然笑顔になるナタリー。


「もう少しいてよ」


「いいよ、なにかする?」


「あー…」


僕はこのやりとりにめんどくさくなった。


「とりあえずキスでもする?」


「はい…」


僕はとりあえず一回やって帰ることにした。


しばらくキスをしていると


「待って、あっちに行こう」ナタリーに寝室へ案内された。


「あ、ねえ、僕こんなことになるなんて思ってなかったからコンドームないよ」


「…ああ、いいの、それは気にしないで。あ、でも中には出さないで」


とりあえず一回ささっと挿入し、適当に済ませた頃には深夜をすぎていた。


『この時間に帰るの嫌だな』と思っていると、明日の朝帰ればいいじゃんと言われて、仕方なくそのまま夜を過ごすことにした。


ホテルに戻る道中、初日に聞かれた質問を思い出していた。


「ホテルに泊まっているの?アパート?」


あれはどこでやるのがいいのか探っていたのかな。もし僕もアパートを借りていたら僕の借りたアパートにナタリーが来ていたのかもしれない。


僕らはその後半年ほど連絡が続いた。


ナタリーがなんどもビデオコールしたいというので、ナタリーが僕にロシア語を教えることを条件に承諾した。


結果的に先生と生徒のような関係になってしまい、多分ナタリーは不満だったんだと思う。


次第にこのビデオコールはつまらないというような態度を示してきた。


そもそもナタリーが英語であまり話せず、もちろん僕は僕でロシア語を話せないのだから、恋愛関係に発展するのは難しかっただろう。


最初からそう言ってあげれば、お互いに変な時間を過ごさなくて良かったのかもしれない、と僕は反省した。


僕は彼女以外にも友達づくりをしたかったから、無駄な時間だったとまでは思わないけれども。

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