第14話 念願の彼女〜韓国人③〜

キムとの良い関係は、キムの明るい性格によって保たれていたのだと思う。


キムは僕らの関係性を他の誰にも言いたくなかった。


だから僕らはニコルやパウロにも何も言わなかった。


誰かに相談できていたら、少し違う結末が待っていたのかなとも思うことがある。


僕らは仲が良かった。


うん、良かったと思う。


いつも2人でいて、一緒にイギリス旅行もヨーロッパ旅行もした。


キムの誕生日には、キムの好きな鶏肉料理を作った。


韓国人は鶏肉が好きということは最近日本でもよく知られているが、当時の僕は知らなかった。


鶏の丸焼きをスーパーで買うと、


「これは1人分だよね~」


といって2人だから2つ買おうとすることがよくあった。


僕は絶対に買いすぎだと不満だったが、キムは本当に1人で1つ食べきってしまった。


キムのおかげで、僕は酒に強くなった。


ほぼ毎日3本以上キムがビールを飲んでいたので、それに付き合っていた。


すると、僕は大きめのビール缶1本が限界だったのに、帰国するころには3本は飲んでいた。


基本的には仲が良かった。


でも、時々衝突することもあった。


特にセックスに関しては相性が良かった反面、コンドームの件含めて衝突することも多かった。


キムは僕の部屋に来ると、決まって窓を開けていた。


夜になるとカーテンを閉めるのだが、窓は開けっぱなし。


僕の部屋1階にあり、隣には寮生の別の女の子がいた。


僕たちがセックスを終えた後、僕は窓が全開であったことに気付いたことが度々ある。


隣の部屋の女子の窓も全開。


そして僕の部屋は1階。


キムも僕も大声を出す方ではないが、キムはセックスしているときに、僕の名前を連呼する癖があった。


そして、セックスが終わると「ふふふ…」とほほを赤くして満足そうな笑顔で、笑い、「今日もすごくよかった~」と大声で発言していた。


たぶん、外にまで聞こえていた。


それがすごく恥ずかしかった。


またある時は、セックスをしている最中に、「こんこんこん」と窓をたたく音が聞こえた。


僕らはすっぽんぽん。


入れている最中に誰かが訪ねてきたことに驚愕して、僕らは固まった。


窓をたたく音が止まらないため、僕は急いで服を着て、キムはトイレに隠れた。


「なに?」とカーテンを開けると1人の若い男性が全開の窓からのぞいていた。


「実はここは俺が前に住んでいたんだ!なつかしくて部屋の中を見たくてさ~」


と酔っぱらった男の子が話しかけてきた。


困惑しながら僕は「はあ」と返事をした後、窓を閉め、カーテンを閉めた。


見知らぬ男の人が窓をたたいたことよりも、窓を開けっぱなしにしていたキムに僕は激怒した。


以来、僕はセックス前に必ず窓を確認する習慣がついた。


僕は、こうやって、時折キムに怒りを覚えていた。


キムはいつも冷静で、僕に怒ったことはないのに。


キムは旅行先のスケジュールをあまりにも無茶な計画を立てることがあった。


キムが旅程をつくりたいというので、任せてみたところ、毎日違う都市に行くという旅程が作られた。


それに文句をつけると、キムは半泣きしながら、別の旅程を考えてくれた。


僕は生理のこともよくわかっていなかった。


生理でいらいらしているキムに対して、僕はせっかくの旅行が台無しだと何度も文句を言ってしまった。


でも、いつも彼女はニコニコしていて、僕の横にいてくれた。


対して僕は何かできていたのだろうか。


僕らの留学が9月に終わり、それぞれ日本と韓国へ帰国した。


僕は日本で就職活動を行い、キムは早々に職を見つけた。


僕らは最初の1か月はラインでやりとりをしていたのだが、次第に返事が遅くなっていった。


仕事が忙しいのだろうと僕は思っていたが、年末、キムのラインから状況を理解した。


知らない男との写真。

韓国語で、愛をつづった詩。

知らない男からの「いいね」。


僕は察した、もうキムの中で僕との関係は終わったのだと。


年が明けて、新年のあいさつのラインをしたところ、


「実は、私今彼氏がいるの」


と連絡がきた。


「ああ、そうだったね、気づいてたよ。おめでとう。」


キムからは驚いた顔のうさぎのスタンプだけ送られてきて、それ以来彼女からラインが来ることはなくなってしまった。


あっけないものだった。


僕は人生で初めてカップルらしいカップル生活を送ることができたのに。


アグネスにふられて、頑張って立ち直って、再び自分なりに頑張ってアタックしたのに。


なんともまあ、あっけない幕引きだったことか。

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