第10話 国際恋愛~ドイツ人③~
アグネスが僕とエンマの前に姿を現さなくなった。
エンマはまだ失恋から立ち直っていなかったため、イギリスでは親友のアグネスに会いたがっていたものの、何も言わずにふらっとドイツに帰るアグネスにエンマは少し苛立ちを覚えていた。
「私の恋愛相談してくれたのだから、私にも相談してくれればいいのに」
アグネスの話題になる度にエンマは不満そうに文句を言っていた。
冬休み直前、アグネスが講義を受けにイギリスに短期間戻っていた。
その間に僕は自分の想いを告げる覚悟をした。
きっとうまくいかない。
結果なんて見えてる。
そう思いながらも自分の想いを伝えずに後悔するのは嫌だった。
相手にとだても迷惑かもしれない。
でも、僕の気持ちをアグネスは既に知っている。
だから逃げるようにドイツへ行ったり来たりしているのかもしれない。
とにもなくにも、想いは伝える。
ようやく勇気を振り絞ってアグネスの参加していた講義が終わるのを待った。
アグネスが外へ出てくると、僕は声をかけた。
驚いた表情だった。
僕はすぐに「イッヒ リーベ ディヒ」と伝えた。
するとニヤニヤっと笑うアグネス。
何か一瞬考えているような表情をした瞬間、僕は恥ずかしくなってその場から逃げてしまった。
あー、失敗したなあと逃げたことに後悔して数日、アグネスからメッセージが届いた。
「告白されたのは初めてで嬉しいけど、友達のままでいたい」
ああ、まあ、そうだよな…。
やっぱりか。
僕は時々背の低さを彼女から指摘されていた。
身長のせいだろうか。
いや、相手は大のチベット好き。
チベット人じゃないと恋愛対象にもならないのかもしへない。
それからアグネスと講義以外で会うことはなかった。
冬休み直前、アグネスの誕生日だった。
僕は密かにプレゼントを用意していたのだが、不要になった。
まあ、でも友達としてならあげていいのではないかというエンマのアドバイスに沿って、エンマにアグネスは渡してほしいと頼んだ。
エンマは快諾してくれた。
アグネスの誕生日、アグネスから笑顔の自撮り写真と共にお礼のメッセージが届いた。
その笑顔はずるいよ…。
涙をこぼしながら心の中でつぶやいたのを覚えてる。
それから、なんとなくあいていた距離が再び埋まりつつあった気がする。
時々メッセージのやり取りはしていたものの、年末には連絡が途絶えた。
新学期、久しぶりにアグネスと講義で再会した。
アグネスは声をかけてくれたものの、僕は気まずくて避けてしまった。
気がつけば、エンマもアグネスと話すことがなくなっていた。
「いつの間にか、3人バラバラになっちゃったね、あんなに毎日一緒にいたのに…。」
エンマと僕は時々2人で会ってはしんみりと話をしていた。
「僕のせいだ。僕が告白しなければ。」
「あなたのせいじゃないよ。私が失恋した時からアグネスは私と何故か距離を置き始めたでしょ?あの時から何かすれ違いがあったんだよ。」
「まあ、僕はもう諦めるよ。また何かあったら愚痴聞いてほしいな。僕も愚痴聞くからさ。」
「そうね、会いましょう。ああ、私はしばらく恋愛はいいわ。博士の準備もしたいし。」
こうして、エンマと僕の友達関係も薄れていった。
思えば、アグネスとは合わないことが多かった。
シャワーを毎日は浴びない人で、それは個人的には嫌だった。
そのせいなのか、体臭の問題なのか、彼女の匂いも好きにはなれなかった。
好きになる人と匂いの関係というのがあるらしい。
良い匂いがする異性に対して好きになるとかなんとか。
多分最初からホルモン的に合っていなかったのだと思う。
そしてなにより、2人でいるときは腕組をしてくれたり、ボディタッチも多くて、付き合ってもいい雰囲気だったのに、まったくそういう雰囲気にならなかったことはいまいち納得できなかった。
これはヨーロッパとアジアの違いなのだろうか。
年明け最初の講義以降、アグネスとの距離は開くばかりだった。
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