17 従姉、共闘する

 きょうの学校を終わらせて、帰りの電車に揺られながら「うーちゃんねるを語るスレ」を開いてみる。幸いまだ帰宅ラッシュより少し早いので、エロ広告だらけの掲示板を見ていてもだれもなにも思わない。


「ここにきてうーちゃんと蓮太郎がタッグ組むとか熱い展開すぎるでしょ それはそれとして俺たちのうーちゃんを返せ」


「くっそお蓮太郎場所代われ」


「うーちゃんに後衛がいれば後ろからの不意打ちにも安心なのはわかるんだけど、感情が追いつかない」


 蓮太郎って誰だ。どうやらうーちゃんは蓮太郎とかいう誰かと共闘しているらしい。名前的に男だよな。帰ったらアパートに知らない男が……ってなったらいやだな、うーちゃんもそこまで単純じゃないと思うけれど。


 アパートに帰ってくると、うーちゃんはなにやら計算をしていた。帳簿をつけている。どうやらダンジョン配信で稼いだお金や獲得して換金したアイテムのことを記録しているらしい。


「ただいま」


「あーくんお帰り。冷蔵庫サぼたもち入ってらよ」


 ぼたもち。なんというおばあちゃん力全開のおやつなんだ……と思ったらダンジョンからの帰り道に和菓子屋さんを見つけて買ってきたのだそうだ。和菓子屋さんなんてハードルが高くて入ったことはなかったが、そこは田舎者パワーで迷わず入ったらしい。

 ありがたくぼたもちを食べる。あんこがうまい。とても幸せな味だ。


「うーちゃん、蓮太郎ってだれ?」


「んー? ああ、きょうダンジョンに潜ってあったらたまたま知り合ってや、なんだかんだ共闘することになった配信者だあ。ちゃんと観だことはそんたにねえばって、けっこう有名な人だよ。主に銃器を扱うのが得意な人でや。近いうちに一緒に潜るべしってなって」


「へえ……なんでもいいけどさ、あんまり知らない人と簡単に仲良くするのやめたほうがいいよ。やまたろうみたいなのもいるわけだしさ」


「そうだか? うーん……帳簿つけ終わったら蓮太郎さんのアーカイブ観でみるつもりでらばって……」


 まあちゃんとした配信者なら問題ないのは想像できるのだが、あんまり気軽に知らない人と仲良くしてほしいとは思わない。

 うーちゃんは帳簿をつけ終えて、テレビをつけた。ぽちぽち操作して蓮太郎とやらの「蓮太郎ダンジョンTV」というのを見始めた。


「へえー……第3層まで潜ってら人なんだか。ほうほう……悲鳴の上げっぷりが気持ちいい」


 うーちゃんの変な性癖の扉が開こうとしている!

 それはともかくその映像を観る限りでは、じつに全うな配信者のようだった。なにも心配するところはないように思えたし、うーちゃんが背中を任せたいと思うなら任せていいのだと思う。

 うーちゃんは蓮太郎とやらのチャンネルをぼーっと観てから、すっくと立ち上がって夕飯の支度を始めた。スパゲッティだ。野菜たっぷりのトマトソースに、お弁当用のミートボールをこれでもかと投入した某アニメ映画風のやつ。

 それを食べつつ、きょうのダンジョンの話を聞く。


「みひろさんの言うとおりに、潜りながら補給したっきゃだいぶ楽であったよ。第2層から第3層あたりまで潜るんだば『あやしい果物』はマストだな」


「そうなんだ」


 ダンジョンの話を聞くのは面白いのだが、どうか安全なところにいてくれと思ってしまう。でも背中を信頼できる人に預けることができるのなら、いまより少し安全になるのかもしれない。


「きょうは第3層に踏み入ったところで引き返してきた。まだ第3層だばあたしの腕ではなんともならねびょん」


「そうなんだ。なるべく慎重にね」


「わがった。頑張ってみる」


 スパゲッティを食べ終えて、僕が食器を洗った。うーちゃんは風呂を沸かして入るようだ。

 僕も頑張らなきゃいけないなあ。

 そう思ったところでメッセージがきた。梶木さんだ。


「うーちゃん蓮太郎と共闘してたね」


「たまたま知り合ったらしいよ」


「虻川くん妬いてたりする?」


「いや別に? 背後を任せられる人がいるなら安心だなあって思ってた」


「そっかあ うちの父がうーちゃんねるを気に入って観ててさ、こんな感じでみひろやひこまろにーと知り合ったなあ、って懐古厨になってたよ」


 懐古厨て。


「そうなんだ なつかしいのかあ」


「まあ男の配信者と一緒ならやまたろうに出くわしても難しいことにはならないんじゃないかな やまたろう、そのへんビビりらしいから」


 なんて卑劣なやつなんだ、やまたろう……。


「蓮太郎の配信の見どころは予想外のモンスターと出くわしたときの絶叫だよ」


 どうやらこの性癖は女の子に共通のもののようだ。いやサンプル2個なんだけど。

 梶木さんと少しメッセージのやり取りをしたあと、課題をやって、うーちゃんが上がってきたので僕も風呂に入った。

 うーちゃんはしばらくいろいろなダンジョン配信を眺めてから寝たようだ。僕もさっさと寝てしまうことにした。


 翌朝起きてくるとすでにうーちゃんが起きていて弁当と朝ご飯をこしらえていた。

 もしうーちゃんが蓮太郎とやらと付き合い始めたら、もしかしたら同棲とかしちゃうのだろうか。そうしたら、誰に弁当を作ってもらえばいいのだろうか。それくらいには、僕はうーちゃんとの暮らしを気に入っていた。

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