JUMP!

口羽龍

JUMP!

 長野県白馬村。ここは長野県の山間部にある。夏は閑散としているが、この辺りには複数のスキー場があり、スキーを楽しむために多くの人がやってくる。そんな長野県は1998年、冬季オリンピックの舞台になった。日本人が多くメダルを獲得し、多くの人々に感動を与えた。だが、その記憶は次第に薄れていき、選手村はニュータウンになった。だけど、長野オリンピックスタジアムがあるように、かつてここでオリンピックが行われた名残を残し続けている。


 そんな白馬村は、ジャンプの競技が行われた場所で、特にジャンプ団体は多くの人々に感動を与えた。2回目のジャンプで大ジャンプを見せた原田雅彦のシーンは今でも語り継がれている。だが、それもまるで遠い昔であるかのように、当時のジャンプ台は老朽化が進んでいるという。


 優希(ゆうき)は10歳。長野県に住む小学生だ。子供の頃からスキーを楽しんでいて、趣味だと胸を張って言っているほどだ。優希はここで行われたオリンピックの事を知らない。


「やっぱスキーは楽しいなー」

「うん」


 その横にいるのは同級生の舞(まい)だ。彼女もスキーが好きで、よく家族とスキー場に行って遊んでいる。


「寒さが吹っ飛ぶよ」

「ほんとほんと」


 長野県の冬は寒い。だけど、スキーで遊んでいると、寒さなんて忘れられるし、とても楽しい。


 と、優希はある物を見つけた。それは、古びたジャンプ台だ。もう何年も整備されていないように見える。雪に埋もれかかっている。使う人はいるんだろうか?


「あれ?」

「どうしたの?」


 舞は首をかしげた。ジャンプ台を見て、何に使われるものだろうと思った。舞はジャンプという競技を知らない。


「これは何だろう」

「ジャンプ台だよ」


 2人は振り向いた。そこには中年の男性がいる。彼もスキーを楽しんでいるようで、スキー板を履いている。


「あー、スキーのあの競技ね」

「おっきいなー」


 優希はジャンプという競技を知っている。高い場所から滑り落ちて、途中から飛んでその長さと美しさを競う競技だ。


「どうしたんだ?」

「あのジャンプ台を見ていて」


 と、男性はある事を思い出したようで、空を見上げた。何を思い出したんだろう。2人は思った。


「そっか。長野オリンピックって知ってるか?」

「ううん」


 2人とも長野オリンピックを知らない。優希は前回の冬季オリンピックは見たが、長野で行われた事も、それ以前に札幌で行われた事も知らない。


「知らないのか。1998年にあったんだけどな」


 男性は長野オリンピックの事を思い出した。あの時は多くの人々が競技を見に来た。特にこのジャンプ台で行われたジャンプの競技には、多くの人が集まったという。


「そうなんだ。日本で冬季オリンピックが開催されたなんて」

「本当に行われたんだよ」


 舞も驚いている。オリンピックが日本で開催されるなんて、すごい事だなと思っている。2021年には1年遅れだが東京で行われた。今度、日本で行われるのはいつだろう。


「で、ここでジャンプの競技が行われたんだよ。あの時はすごかったなー」

「本当?」


 2人は興味津々に男性を見ていた。その話を聞きたいようだ。


「うん。ジャンプの団体での話だけど、原田雅彦選手が2回目で大ジャンプを見せた時には大いに沸き上がって、船木和喜も大ジャンプを見せて、金メダルが決まった時の盛り上がりはもっとすごかった」


 男性はジャンプ団体の興奮を思い出した。あの時の興奮はすごかったな。みんな、金メダルを期待してやって来たそうだ。


「そうなんだ」

「あの時、生で見てたんだ。多くの人が来ていて、金メダルの瞬間を見届けたんだよな」


 今思い出しても、あの時の事を思い出すと、気持ちが上がってくる。そんな素晴らしい体験だった。


「ふーん」

「メモリアルギャラリー、行ってみるかい?」


 このジャンプ競技場のスタートタワーの中2階には、『白馬オリンピックメモリアルギャラリー』があり、当時の様々な物が展示されている。男性はそこに行った事があり、そのたびに興奮がよみがえるという。


「うん」


 2人はメモリアルギャラリーに行く事にした。行く予定はなかったけど、何もすることがないし、誘われたんだから行ってみよう。




 2人はメモリアルギャラリーにやって来た。そこには長野オリンピックで使われたメダル、ウェアー、競技道具などが展示されている。来ている人はこの3人だけで、全く人がいない。普段からあまりいないようだ。だが、少なくても、1998年に長野オリンピックがあり、ここでジャンプが行われたという事を後世に伝えている。


「これが、メモリアルギャラリーなんだ」

「うん」


 2人は長野オリンピックに出場した選手の写真を見ている。その中には、日本人もいる。開催国の誇りを胸に、みんな戦ったに違いない。


「こんな大会だったんだ」

「賑やかだっただろうな」


 その周りには、多くの人だかりがある。あの時は相当な興奮だっただろうな。2021年の東京オリンピックはコロナ禍だったため、関係者しかおらず、寂しい大会だった。新型コロナウィルスさえなければ、こんなに多くの人が集まっていたかもしれないのに。


「あの時は寒さなんて忘れて、みんな熱くなっていたんだ」

「今の静けさとは、正反対だね」


 と、男性ある写真が目に入った。ジャンプ団他の日本代表の4人だ。金メダルを獲得して、観客に向かって手を振っている様子だ。2人もやってきて、その写真を見つめていた。


「これが、ジャンプ団体のメンバー?」

「うん」


 と、優希はある事を思い出した。これが男性が一番興奮した瞬間なんだ。あのジャンプ台で、この4人が飛び、金メダルを獲得したんだな。


「おじさんが言ってた2人って、この人?」

「うん。そうだよ」


 3人はその4人の写真をじっと見ている。生で見た事がないけど、よほど感動したんだと想像できる。


「僕、全く知らんかった」

「でも、すごい人だったんだよ」

「あの時の興奮、忘れないでほしいな」


 そしてまた、4年ごとにオリンピックが行われる。そのたびに、新たな興奮が、新たな感動が待っている。だけど、1998年の長野でオリンピックが行われ、多くの興奮が、多くの感動があった事を、忘れないでほしいな。

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