第7話 ミラという少女
「黒髪のおにーさん、お名前を聞いてもいいですか?」
「俺はジェレミーだ。君は?」
「私はミラです! それにしても、ジェレミー様ですか。あの賢者様と同じ名前だなんて凄いですね」
街を歩きながらも俺たちは互いに自己紹介を済ませた。
傷んだ茶色の長い髪が特徴的な少女の名前はミラというらしい。今一度見ても、髪は腰の辺りまで伸びきっており、束ねていないからか少々もっさりとした印象を受ける。
「賢者様ねぇ……なあ、ミラ、一つ聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「俺はどんな格好だ? 怪しいか?」
「全然怪しくないですよ? おにーさんは黒色の髪と目で、ところどころ破けていますが仕立ての良さそうなローブを羽織っていて、その下に着ている襟のたったジャケットは高級品に見えます。年齢は二十歳くらいで、職業は冒険者様ですか?」
わかっていたことだが、第三者から見てもらっても容姿は二千年前と相違ないらしい。
見た目は黒色の短髪に黒色の瞳で、装備は魔王にやられたボロボロのローブ、その下には襟のたったジャケットを着ている。
「冒険者というのは何をする人たちだ?」
「え? どうしてそんなことすら知らないんですか?」
「教えてくれるか?」
知らないわけではない。むしろ深く知っているが、その知識が今も通用するのかわからないから念のため聞いておく。
「わかりました。まず冒険者は実力に応じて等級が分けられています。まず、一番下は初級冒険者と呼ばれていて、いわばルーキーです。簡単なモンスターの討伐や街の中で起きた様々な問題を解決するのが仕事です。その仕事はクエストと呼ばれていて、ある一定量をこなすと、中級冒険者になることができます。そこから本格的にたくさんのモンスターを狩れるようになりますが、ここで命を落とす人も多くて、その上の上級冒険者になれる人は———」
「———もう大丈夫だ。俺が知っている冒険者に関する情報と多分一緒だ。あれだろ? 上級冒険者は更に危険でごく一部しかなれないってことだよな」
「そうです! ほとんどの冒険者は中級冒険者止まりですね」
冒険者のカテゴリーごとの割合については不透明だが、大まかな認識については二千年前と大差なさそうだ。
「ちなみに最上級冒険者はどのくらいいるかわかるか?」
「最上級冒険者? なんですかそれ。一番上は上級冒険者ですよ?」
「え? そうなのか?」
「はい。私は訳あって冒険者様の事情に詳しいですが、最上級冒険者なんて聞いたことがありませんね。何かの都市伝説では?」
「……そんなはずはないんだが……いや、そうだな。俺の勘違いだったかもしれない」
俺こそがその最上級冒険者なのだが、ここで何を言おうと無意味なので大人しく引くことにした。
今は最上級冒険者という等級が消えたという事実だけわかればいい。
「ふーん……それにしても、ジェレミー様は不思議な感じがしますねー」
「不思議に見えるか?」
「はい。冒険者様でもないのに堂々としていますし、何かこう……覇気があるというか、きっと剣技にも長けているんだろうなぁって勝手に思ってます」
ミラは横目で俺の全身を観察しながら口にした。
剣技は際立って得意というわけでもないので、彼女の見解はあっているようで間違っていた。
わざわざ指摘することでもないので触れないが。
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