第8話 冒険者ギルド
「話しているうちに到着したな」
俺は特に自分の話を広げるわけでもなく、すぐ目の前の四角くて茶色い建物に視線を移した。
地味な外観だな。
一階部分は大きく開けていて、外から中の様子が見えるようになっている。
「はい。この大きな建物こそが冒険者ギルドです。奥の受付で冒険者登録を受ければ、今すぐにでも冒険者様になれますよ?」
「今は大丈夫だ。俺は冒険者と魔族、そしてモンスターについて知りたいだけだからな」
「えー、もったいないですよー! 私の見立てが合っているならジェレミー様はお強いはずなので、冒険者デビューすればすぐに稼げるようになりますよ? 本当にいいんですか?」
ミラは背伸びをしながらぐいぐいと顔を近づけてきた。
冒険者になるのは別に嫌ではないし、むしろ俺は冒険者になったほうが生きやすいだろう。
だが、魔王討伐という最大の役目を果たした今の俺は、もっと別の何かに挑戦したくなっていた。
だからこそ、今はまだ判断を下す時じゃない。
冒険者や魔族、モンスター、そしてこの世界のことをもう少し深く理解した上で、この先をどうするのか決めたいのだ。
「期待しているところ悪いが、俺が冒険者になる可能性は低いと思うぞ」
「ちぇー、それなら冒険者登録をせずに討伐に行きませんか? 個人で手に入れたモンスターの素材なんかはギルドに中抜きされないので、商会で高く売れますよ?」
ミラはどこで覚えたのか手のひらを擦り合わせる仕草をしていた。
時折俺をこうして冒険に行かせたがる理由は明白だ。
「そんなに俺を冒険に行かせたいのか? 分かってはいたが、ミラ。君は俺と一緒に行動してあわよくば”お恵み”がほしいだけだろ」
お恵みという名の金を案内料とでも称して掠め取ろうとしようとしていることは、最初から全てお見通しだ。
「そ、そんなことないですよ~」
「最初からバレバレだ。そんなに金に困っているのなら、こんな効率の悪いことをせずに普通に働いたらどうだ? まだ若いんだし、色々とできることはあるんじゃないのか?」
わざとらしく否定するミラの目を見て俺は尋ねた。
しかし、その言葉を聞いた彼女の表情は芳しくない。
「……私は、コツコツ働いても足りないほどの大金を早く集めないと、多分……だから、たくさんお金を稼げる冒険者様のお恵みをもらうのが一番早いんです。苦しいことばかりですが、普通に働くよりもお金はたくさんもらえますから」
「そうか。理由はわかったが、あまり無茶はするなよ。俺は別に何とも思わないが、それを嫌がる冒険者もいるだろうからな」
俺は見るからにテンションが下がっているミラに言葉をかけると同時に、冒険者ギルドの近くでたむろする集団が目に入った。
「話は変わるが、あの集団は何だ? これからどこかに行くのか?」
集団は皆一様に万全の装備を整えており、各々が剣や斧などの武器を携えている。
「おそらくあれは討伐隊かと。中級冒険者の方々ですが、素行が悪いことで悪評は有名です。あまり近づかない方がいいですよ……」
集団を見たミラは途端に俺の背後に隠れて尻すぼみに言葉を紡いだ。
「別に隠れることないだろ? 何かあったのか?」
俺は急なミラの態度の変化が気になったので尋ねてみたが、彼女は口を閉ざして言葉を返さない。
すると、集団の中から一人の男が物珍しそうな表情を浮かべながらこちらにやってきた。
あまり雰囲気は穏便じゃないな。
視線の行く末からして、俺の背後に隠れているミラに用事がありそうだ。
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