第6話 茶髪の少女
「なんでもない」
たとえ相手が少女であろうとも、俺は警戒心を緩めることなく断りを入れた。
一瞥するに留めて距離を取る。
しかし、少女は早歩きで俺の目の前に躍り出ると、立ち塞がるようにしてこちらを見上げてきた。
「私はただ貴方を助けようとしただけなので、もしもお困りのことがあるのなら遠慮せず私に聞いてください!」
少女は結ばれていない長い茶髪を揺らしながら言った。
「わかったわかった。これをやるから離れてくれ」
振り払っても無理やり着いてきそうな雰囲気をプンプン感じたので、俺はローブの内側から一枚の硬貨を取り出し指で弾いた。
「わーい! お金だぁ! って、これは何ですか? 見たことない硬貨ですけど」
少女は宙を舞う硬貨を両の手のひらで受け止めて喜んでいたかに思えたが、すぐに硬貨をじっくりと眺めて目を細めた。
太陽に反射する金色の硬貨の存在を少女は知らないらしい。
「そうか。そうだよな」
試しに二千年前に流通していた硬貨を渡してみたが、当たり前のように少女はそれが”金”であったことを認識していなかった。
当時の硬貨の中では最も価値の高い大金貨なんだがな。
たまたま一枚持っていたが、この反応を見るに全く価値がないらしい。
「えーっと……おにーさんは冒険者様ですよね?他にお金は持ってないのですか?」
「その硬貨と同じようなものならたくさん持っているが、君が望んでいるようなお金は持っていないな」
「なーんだ、てっきり羽振りの良い冒険者様かと思ったのに」
少女は、ぶーぶーと頬を膨らませながら文句を言っていた。
文句を言われる筋合いはないが良いことを聞けた。
冒険者の羽振りが良いということは、この世界でも冒険者という職業は重宝されているということだな。
商人の男も冒険者は華だと言っていたが、そういう認識で間違いなさそうだ。
となれば、まずは冒険者について情報を集めるとしよう。
「悪かったな。じゃあ、用は済んだみたいだし俺は行くからな」
「待ってください。おにーさんは少し面白そうなので着いて行ってもいいですか?」
少女は立ち去ろうとする俺の手首を掴むと、こてんと首を横にする。
手慣れてるな。きっと身なりや雰囲気を見て、土地勘のない俺のような人間を狙っているのだろう。
目的は金で間違いないか。
「……別に構わないが、俺は街の外から来てこの辺りは詳しくないんだ。着いてきても楽しくないと思うぞ?」
断ろうとも思ったが、このタイプの人間をあしらうのは大変なので仕方なく首を縦に振ることにした。
「だいじょーぶです! それじゃあ、まずは冒険者ギルドに行きましょー! モンスターを討伐するとたくさんお金をもらえますしね!」
「結局それが狙いか。まあ、俺も冒険者についてちょうど知りたかったからいいけど」
俺は満面の笑みを浮かべて歩き始めた少女の後を追った。
物乞いにしてはしつこいし、俺のような無知な人間を嵌めるにしては強欲さが足りない気がする。
何か裏があるのは間違いないが、この少女がいつどこで何を仕掛けてくるのかはまだわからないな。
とりあえず様子を見るとしよう。
商人の男から聞けなかったこの世界の情報を得るチャンスでもあるしな。
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