第3話 久しぶりの外の世界

 眩い太陽の光はどこか懐かしく感じた。


 土の中から這い出た俺は、あまりにも新鮮な空気を目一杯吸い込み状況整理を始めた。

 服装は焼け焦げてほつれにほつれている黒のローブと、その下には襟のたった同色のジャケットを着ていた。金色のボタンで上まで止められたジャケットの高級感は、以前と変わりない。


 外傷よりも内臓系の負担が大きい戦いだったからか、ローブを見ただけなら、歴戦の冒険者感が出ていると思う。

 ちなみに愛用していた杖は持っていない。

 あれは多分、俺と魔王グラディウスが放った魔法の衝突によって壊れたのだろう。


 それにしても、空が綺麗だ。


「ずっと青空なんか見えなかったもんな」


 ヤツの闇魔法が強大すぎるあまり、魔界のみならず人間界の空すらも薄灰色に染まっていた。

 人類はいつの日か太陽の光を忘れ、どんよりとした暗い生活を送っていたのをよく覚えている。


「俺が強制冷凍睡眠コールドスリープを使ったのは、人間界と魔界の狭間の荒地だったはずだよな。こんな大森林に出てくるなんて……一体何年経過してるんだよ」


 俺は辺り一帯に視線を這わせた。


 場所は背が高い木々が立ち並ぶ大森林の中。

 周囲に生物がいる気配はゼロ。

 太陽の位置からして時刻は昼頃だろうか。


「……近くの街でも探してみるか。そんなに時間が経過してなければ誰か知っているやつに会えるかもしれないしな」


 俺はとにかく森を抜けようと適当な方角に向かって歩みを進め始めた。

 荒地が大森林になるくらいなので、それ相応の時間は流れているはずだが、もしかしたら十年やそこらかもしれない。そうすると、旧友に会えてもおかしくはない。


 とにかく、今は今の時間を生きている人間の姿を探そう。辺りに魔族の邪悪なオーラは感じないし、警戒しながら歩みを進めれば問題はないだろう。



◇◆◇◆◇◆




 歩みを進めること数十分


 広すぎる大森林をようやく抜けると、次に待っていたのは先の見えない草原だった。


「テレポートは使えないし……やっぱり歩くしかないか」


 だだっ広い草原の果てを眺めていると、思わず溜め息がこぼれてしまった。

 テレポートは地理や地形を把握した上で、頭の中で入念な目的地点の登録をしないと使えないので、かつての時間軸から離れた今の俺では扱うことができない。

 物は試しにと、以前まで繁栄していたテレポートしようとしてみたが、魔力消費も起こらず移動もできなかった。

 つまり、そこにはもう俺の知ってる大国が存在しないということになる。


「……魔族もモンスターもいないな。魔王グラディウスが完全に滅んで血は絶えたのか?」


 のんびりと草原を歩きながら考える。


 魔王グラディウスは悪の親玉として、知能を持って言語を操る、魔族という存在を生み出す。その魔族が更に生み出すのがモンスターである。

 魔族の数はそれほど多くないが、人間とほぼ同等かそれ以上に賢く、それでいて強さも兼ね備えているので厄介だ。逆にモンスターは知能が低い代わりに数が異様に多く、世界中に散らばり、日夜人類と交戦を繰り広げていた。また、モンスターの強さにはかなり幅があり、強力なモンスターも少なくはなかった。


 ちなみに魔族やモンスターと戦い、人類を守るべき存在こそが冒険者だ。

 同じく冒険者であった俺も含んで、彼らがいたからこそ世界は均衡を保てていたと言える。


「……ん? あれは商人か?」


 そんなこんなで考え事をしていながら歩いていると、数百メートル先に馬車を発見した。


 遠すぎてよく見えないが、御者席には恰幅良い男が乗っており、荷台はかなり大きいことから、おそらくどこかへ移動中の商人であるだろうと見当がつく。


 周りに他の人はいなさそうだし、せっかくなら声をかけて話を聞いてみるとしよう。



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