第2話 目覚めの世界

 瞳を開けると、光のない世界にいた。


 ここはどこだ?


 確かに意識はある。


 既に強制冷凍睡眠コールドスリープは解除されているのか、感じていた失血による気だるさは全くなくなっている。

 おそらく、強制冷凍睡眠コールドスリープ期間中に全身が自然治癒したのだろう。低体温で代謝が低い状態だったとはいえ、人間の本能が満身創痍から復帰を果たす手助けをしたというわけだ。


 それにしても、俺はどこにいるのだろうか。


 全身に圧迫感と閉塞感があるし、柔らかい感触と周囲からの冷気をほのかに感じる。

 

 おまけに少し口を開けただけで、ジャリジャリと気持ち悪いものが口に入ってきた。

 血と一緒に味わったことのある懐かしい味だ。


 これは土か。

 

 俺は圧迫されている両の手のひらを動かして、その手で土を掴むと、凍てついた地に覆われた層が簡単に砕け、指先には少しずつ暖かさが戻ってくるのがわかった。表面に張っていた薄い氷の層が砕けたようだ。


 ここは土の中で間違いなさそうだ。

 光が差し込まないということは、それなりに地中深くにいるということになる。

 ずっと息を止めているわけにもいかないし、早急に脱出したほうが良さそうだな。


「……っ!」


 俺は全身に力を込めると、右の手を上方に伸ばして瞬間的に光魔法を放った。


 放たれた光魔法は減速することなく直線的に上方へ突き進むと、やがて厚い土の層を突破し、遥か頭上から光を差し込ませた。

 

 差し込む微かな光が、俺に未知の世界の存在を教えてくれる。


 単なる目算になるが、距離にして百メートルないくらいか。これなら硬い土の層をよじ登って脱出できそうだ。


 何とかなりそうだと踏んだ俺は、力強く腕を伸ばして土を掘り進めてよじ登っていく。


 体調は万全だ。痛いところもないし、魔力だって十分にある。

 そう考えると、俺は結構長い間、氷の世界に閉じ込められていたのかもしれないな。


 低体温、低代謝時の治癒能力と魔力回復量を加味すると、最低でも十年以上は経過しているだろう。俺の基礎能力を含めるならもう少し早いかもしれないが、一年や二年そこらというわけではないだろうな。


 まあ、とにかく今は地上に出ることを第一に考えよう。


 時が経過しているということは、高度な文明が発達し、武器や防具、魔法が目覚ましい進化を遂げ、世界の均衡や情勢に変化が現れているに違いない。


 魔法を第一に学び、習得し、数多くの知識を得たい俺からすれば、仮に数百年単位で時が流れていた場合、まだ見ぬ魔法の存在に触れることできる最高の環境となる。


 まずは地上に出て人間を探そう。

 

 話はそれからだ。




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