第11話 姉
ずっと前から、お姉ちゃんは私の憧れ。
強くて、優しくて、かっこよくて。
私はそんなお姉ちゃんみたいになりたくて、ずっと、ずっと頑張ってきた……
――「ううー、何度やっても、お姉ちゃんみたいにできないよ。」
「焦らないで大丈夫。この前より、少し上達しているよ。」
「本当? ホントのホントに!?」
「うん。前よりも、力のかけ方が上手になったよ。」
お姉ちゃんは、いつだって私の隣を歩いてくれた。
本当はもっと早く歩けるのに、一人でどこまでも走っていけるのに……
それでも、ゆっくり進む私のことを抜き去ることはせずに、私を支えてくれた。
「私、お姉ちゃんみたいに強くなれる?」
「うん、なれるよ。頑張って練習を続けたらね。」
「本当? じゃあ、私、約束する! いつか、お姉ちゃんと同じくらい強くなる!」
「そう? それは楽しみだな。その日が来るのを、待ってるよ。」
――けれど、私はいつになっても弱かった。
練習を重ねても手のひらに収まる程度の水しか操れるようにはなれず、投げやりになる日も多かった。
そんな日には練習を投げ出して、家の近くにある丘から漠然と星空を眺めるのが常だった。
「どうしたの?」
ふてくされて芝生に寝そべっている時、お姉ちゃんは必ず私の元に来て隣に座る。
毎度恒例、お悩み相談会の始まりだ。
「――。」
「言ってごらん? 一緒に考えてあげるから。」
「――。」
「お友達とケンカしたとか?」
私は首を左右に振る。
ケンカするほどの友達がいないの、お姉ちゃんは知ってるくせに。
私は結局、正直に話すしかなかった。
このまま黙っていても、お姉ちゃんは私が口を開くまでずっと待っているのだろうし。
「いつになったら――るの?」
「うん?」
「――い、いつになったら、私は、強くなれるの?」
「霞は少しずつ強くなっているよ。」
「全然、全然だよ! 私、まだコップ一杯の水を動かすのでやっとだよ……」
「焦ってるの?」
「だ、だって、こんなんじゃ、いつになってもダメだよ。もう何年も練習してるのに、ずっとこんな調子で……」
「霞が毎日頑張ってるのは、私も知ってる。――でもね、そこからくるだけのモノじゃないんだよ、強さっていうのは。」
そう言った彼女はぼんやりと遠くを見つめていた。
自分で言ったことなのに、まるで耳に入れたくない言葉であるかのように。
「じゃあ、なんなの? 何が必要なのか、教えてよ、走り込みとかもした方がいいなら、私、やるから!」
「それは、強くなれたときに分かるんだよ?」
「な、なにそれ。それじゃ、いつになってもわかる気がしない……。」
「大丈夫。まずは信じること。先の見えない夜道でも、月は必ず、あなたの味方をしてくれるから。」
そう言いながら輝きをこぼす新月を指差すお姉ちゃんの瞳には、プラネタリウムのようにたくさんの星々が輝いていた。
「よくわからないよ。お姉ちゃん、適当にごまかしてたりしないよね?」
そう聞いた私に、お姉ちゃんは遠い眼差しで微笑む。
「さあね。」
――あれから数年。
高校の寮に引っ越してからは、星の光は街の営みにかき消されてしまうので見ることはできない。
だからこそ、虚空に一人寂しく佇む月を見るたび、私は必ず心に誓う。
今よりも、強くならなければいけないと。
あの日見た星々の輝きと、いつしか私を置いて行ってしまった憧れの人の横顔を、まだ忘れてしまわぬうちに……
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