北海道国立高校編
第4話 いざ、北海道へ!
「明平君……。」
新千歳空港行の飛行機内で、彼の隣に座っていた天降が気まずそうに話しかける。
「私のせいでこんなことになってしまって、本当に、ごめんなさい……。」
「いいっていいって。むしろ俺は感謝してる。あのとき助けてくれなかったらどうなっていたことか。」
東京から追い出されたことを、彼は全く気にしていない。なぜなら、今このようにして女子と遠出できることをとても喜んでいるのだから。
彼の言葉を聞いて、天降の強張った表情が少しばかりほぐれる。
「明平君は優しいのですね。――あっ、ぶどうジュースでお願いします。」
「俺はコーラにします。――そういえば、あのときの光線はすごかったなあ。あまり力んでなかったように見えたけど、本気を出したらもっとすごいの?」
「最大出力を出したことはないので分かりませんが……少なくとも、あの時はあれほどの火力を出そうとはしていませんでした。」
「テンパって出しすぎたのか?」
「はっきりと理由は分かりませんが、そうかもしれません……。うう、あんなこと、初めてです。力の制御には慣れていると思っていたのですが……。」
彼女は少々恥ずかしそうな表情をした。それもそのはず、S級確定と言われ、その上首席入学という成果があるにも関わらず、力の制御という初歩的なことを誤ったからだ。
そう、S級の実力があるならば到底失敗することのない、基本中の基本を……
「明平君には、力の制御を間違えちゃったこと、あったりしませんか?」
「えっ?――え、えっとですね、ああ……」
彼は言葉に詰まった。超能力を使ったことのない者に、そんなことがわかるはずがない。
「――あっ、そうでしたね。
「あはは、そうだねえ、うん。」
彼の額を伝う冷や汗が収まった。
「教えてもらえませんか?私、ちょっと気になっていたんです。未来がわかるって、どんな感じなんですか?」
妙に食いついてきた。綺麗な瞳を輝かせながら、興味津々な様子でじっとこちらを見てくる。
「え、ああ、えーっと、何と言いますか、頭の中に、パーっと浮かんでくると言いますか、そんな感じで……。」
「へえっ!すごいですね!映像みたいなのが見えるんですか?」
「ハイ、ソウデス……。」
「それなら、今から私が何をしようとしているか、わかりますか?」
またもや彼を襲う危機が訪れた。彼の気持ちなど全く知らない天降は、好奇心旺盛な子供のような目で、彼の回答に期待を寄せている。
「え、えーっと、ジュースを飲もうとしている……?」
ここまで来たら、もうカンに頼るしかなかった。
当たっているのか、それとも外したのか判断できない微妙な表情の天降。
こういうのが一番心臓に悪い。
彼の体内に響く鼓動が、次第に大きくなっていく。どうか当たってくれ……!
「――すごいですね!大正解です!本当にわかっちゃうんですね!」
危機を回避したことを知った彼は、のどに詰まった息を吐きだした。
試験をカンで解いて合格するほどの男だ。やはりその精度は伊達じゃない。
彼が退学を回避したのは、これで何度目になるだろうか……。
――新千歳空港、北海道の空の玄関口。
「荷物、すべて受け取れましたか?」
「うん。」
「そしたら、まだ時間がありますから、何か食べに行きましょうよ。」
二階へ上がった二人を出迎えたのは、大きな吹き抜けだった。見上げると、数多の鉄骨がトラス構造を形成し、ガラス張りの天井を支えている。ぶら下がっている照明から放たれる光がまぶしかった。
平日だからか、さほど人は多くない。
たくさんの店が並ぶ中、天降が明平の先を歩く。
「あけひらさん、あけひらさん、お店がいっぱいありますよ!どれにしましょうか!」
彼女は笑顔でそう言いながら、軽い足取りで様々な店を見て回る。
「――あ、ここのソフトクリーム、おいしそうですよ!」
(天降さん、おとなしい人だと思っていたけど、こういうところもあるんだなあ。)
「じゃあ、俺もこれにしようかな。――えーっと、430円か。よんひゃくさんじゅうえん……。」
明平は所々が擦り切れた財布の中から五百円玉か百円玉を出そうと、十円玉や五円玉を指でかき分けて探った。
「私が払いますよ。」
「い、いやいや、大丈夫。おごってもらうわけには……」
「遠慮しないでください。いろいろと迷惑をかけてしまいましたから。」
もう一度断ろうとしたが、すでに彼女は注文を済ませてしまっていた。
彼女が最新機種のスマホを出して決済するのを見て、明平は大きな格差を痛感した。
高校の能力開発科に入学すると、電話やメッセージなどの最低限の機能が使えるスマートフォン端末が国から支給されるのだが、大抵の生徒はより高性能な端末を個人で用意することが多い。
苦学生の明平は、もちろん学校支給のスマホのみを使っている。が、中学の時はスマホを持つことが出来なかった彼は、十分満足している。
それはそうと、少し時間が経ってから、天降が両手にソフトクリームを持って出てきた。
「はい、どうぞ。」
「ははーっ、食料をお恵み下さり、ありがとうございます。」
幾層にもわたって巻かれたアイス部分はかなりの高さがあり、普通のソフトクリームと比べてとても大きい。手に持つと、心地よい冷気とともに、ずっしりとした重みを感じる。
「ふふっ、大げさですね。では、いただきます。」
「いただきます。」
彼らは小一時間様々なものを食べ、北海道のグルメを満喫した。
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