第74話 大立ち回り
「…あいつ、頭がおかしくなったのか?」
周りが静まり返る中、王子のそのつぶやきが俺の耳に入ってきた。
生徒をはじめ、教師を含めた全員が困惑していた。
急に何を言い出すのか、と。
そして、シルの付き人たちは自分の主が無礼な物言いをされていると気付き、顔をしかめる。
だが、誰も、何も言わなかった。
俺の気迫の前に口を挟める者が居なかったのだ。
たった二人を除いて。
「やりなさい!あなたの力、ここに居る全員の心に刻み込むのよ!」
イリスが後ろから発破をかけてくれる。なんだよ。あいつ、いつもいつも性格最悪のくせに、かっこいいこと言ってくれるじゃねえか。
「エルラド…!?馬鹿な…!あり得ないわ!」
シルの表情が、驚愕のものに変わっていく。
王子がその声に反応して、シルの方を振り返る。
「お母様…?」
俺はその声を無視して、息を整える。
オルカンの性格は元々俺のコピーだ。あいつに刻み込んだモノの一つに、こんなものがある。
やるならとことん突き詰めろ。
俺が蘇ったこの刹那に今やらなければいけないこと。それはたった一つ。
「注目。」
俺が追い求めたものを、見せてやるのだ。
「ここにいる奴ら全員に問う。お前ら、本気で魔法を楽しんでるか?」
そして、それに魅せられた者を、生み出すのだ。
「本気で夢を持って、ロマンを追い求めてるか!?」
あの時のように────。
俺は誰もが静まり返る中で一人、大声を上げる。ここに居る全員に伝わるように。誰一人取りこぼさないように。
この肉体でやるのは初めてだが、やってやる。
「揃いも揃ってつまらない顔を並べやがって。お前らが何しに来たのか、俺には手に取るようにわかるぞ。」
俺は腕を広げて大仰な仕草で持って語り出す。
「魔法は戦いの道具だ。大学はには、拍付けに入っただけだ。そもそも、魔法にそこまで興味がない。」
頭の上に腕を掲げて、手を振り払う素振りをする。
「あーああ。もったいねえなぁ。」
肩を竦めて、上半身を脱力する。遠くからでも一目でわかるように、あえて大げさに、仰々しい動きを乗せる。
「でも、安心しろ。そんな考え、今ここで木っ端微塵に消し飛ばしてやるよ。」
俺はゆっくりと歩き出す。全員の視線を集める為にあえて急がない。
「なんで、魔法に夢があるのか。それは自分の意志一つで、どんなことでもできるからだ。」
俺は投影魔法を展開して、空中に俺の記憶を映し出す。
「例えば、辺り一面を植物だらけの森に変えてしまう魔法。」
そこに映し出されるのは、固有魔法を使うアスティアの後ろ姿だ。
「例えば、限定的に空間を支配する魔法。」
そこに映し出されるのは、固有魔法を使うイツキの後ろ姿だ。
「例えば、第二の人生を送れる魔法。」
そこに映し出されるのは、転生魔法の立体魔法陣だ。
「今挙げた魔法は、ほんの一握りに過ぎない。物体に魔力を固定する魔法。対象を魂ごと焼き尽くす魔法。魔法はなんでもありだ。ただし────!」
そこで投影魔法を解除する。全員の視線が俺に集まるのを確認してから、俺は言葉を綴る。
「それを使うことが許されるのは、魔法に夢とロマンを持った奴だけだ。」
全員の視線が俺に釘付けになっている。ここに居る全員の心を捕まえたことを、俺は確信する。
「お前らが何を言いたのか、俺にはよくわかるぞ、そんなの天才しか無理だろ。才能がない自分には関係がない。」
俺はそこでぐるっと周りを見渡す。
「それ、つまんねえ人生だと思わねえか?」
全員の心に語り掛けるように、生徒たち一人一人に目線を合わせながら問いかける。
「今、ここには最高のモノが揃ってる。最高の教師。最高の道具。最高の環境。そして────。」
俺は一拍置いてから、敢えて普通の声量でその言葉を口にする。
「最高の仲間。」
生徒たちがお互いの顔を見合わせる。そうだ。お前らには、この国で最高のモノが揃ってる。まずはそれを再確認するんだ。
「ここまで言えば、もうわかるよな?お膳立ては完璧だ。ショウの開演準備は、親が、国が、全力で揃えてくれた。なら、その舞台の中央に立つのは、誰だ?」
全員の視線が俺の元に戻ってくる。
「お前だ。」
ここで重要なのは「お前ら」ではなく、「お前」と言い切ることだ。
俺は再び歩き出す。しかし、今度はゆっくりではなく、普通の速度で、だ。
「誰かの脇役でいいのか?誰かの引き立て役で満足か?それなら結構。そこで充実した日々を送ってくれ。自分が満足してるならそれでいい。でも────。」
俺は攻撃魔法を撃つための位置で足を止める。
「そんなんで満足できる程度の奴が、ここに来てる訳ないよな?」
俺は振り返って。イリスの方を見る。
「俺は知っているぞ!お前が、そんなところで止まれる奴じゃないことを!でっけえ夢を持って、ロマンを追い求めてることを!」
イリスはそれを聞いて、歯を見せながら口元を吊り上げる。
「スタート地点に立った。自分も持った。仲間も持った。ならもう大丈夫だ。あとは必死に走り続けろ。」
俺はオルカンに近くに来るように合図する。
「俺がこれから見せるのは、お前が目指すかもしれないゴールだ。」
オルカンは俺の横まで歩いてくると、優雅に一礼をする。そして、杖に変身して、俺の手元に収まる。
「”エンゲージ”────!」
俺の目の前に立体魔法陣が出現する。
「
立体魔法陣が音を立てて変形し始める。魔法文字はパズルのように動き回り、魔法式は刻一刻とその姿を変えていく。
「
込めるのは魔力ではなく、太陽の光。
魔法陣の中に光が収束していく。そして、砲身の中に眩い光を放つ、小さな小さな太陽が出来上がる。
「一瞬だ!その目に焼き付けろよ!行くぞ!」
俺は完成した魔法陣を起動する。俺は仰角を僅かに上に向け、町に被害が及ばないようにしておく。
「ターゲットロック────!焼き斬れ、スターダストレンジ────!!」
眩い光が的に向かって照射される。
あまりの眩しさに、その場に居た全員が目を閉じる。
特に轟音が聞こえてくるわけでもない。派手な爆発があるわけでもない。
だが、このカスタムを使ったのには意味がある。
「…相変わらず、何度見ても意味が分からないわ。」
後ろから、イリスのそんなつぶやきが聞こえてくる。
周りの生徒たちが一人、また一人と目を開く。
そこには、訓練場の外壁すらも焼き切る、真っ直ぐな焦げ跡だけが残っていた。
足音を響かせながら、イリスがこちら側に近づいてくる。
全員、彼女が何を言うのか、耳を傾けている。
イリスは俺の目の前に立つと、挑戦的な顔つきで言い放つ。
「────でも、だからこそ、目指す価値があるのよ!」
俺はその言葉を聞いて、満足する。
彼女に満面の笑みで、その場にいる全員に、あの言葉を贈る。
「どうだ!魔法って、夢があるだろ────?」
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