第59話 激怒
「失礼します。」
俺はノックをしてから会議室の扉を開く。そこにはたくさんの先生方が一つの大机に向かって座っていた。
その中で入口に一番近い席にいるイツキと目が合う。明らかに不機嫌そうに見える。
「放課後なのに来てもらってすまない。少し、君のことについて話を聞かせて欲しくてね。」
クーベルズ先生が立ち上がって、俺の方に軽い説明をしてくれた。
「クーベルズ先生から話を聞かせてもらったが、いくつか信じられないことがあってね。まず絶対にありえないと思うが、召喚魔法を使ったというのは本当なのかい?」
奥の方にいる小太りの男の教師がそんなことを聞いてくる。
俺はなんて答えるのがいいのか分からずイツキの方に視線を送る。
イツキは諦めろという感じで首を横に振る。とりあえず正直に答えておけばいいだろう。
「はい、使いました。」
「ならその証拠を見せてみなさい。」
え?
それ俺が見せなきゃいけないの?
どこか腑に落ちない感じがする。というかなんで直に見ていたクーベルズ先生がいるのにそんなもの見せなきゃいけないのか。
「…見せられなかったらどうなるんですか?」
俺はそいつに対する不信感からそんなことを口にする。
「それだと今回のテストの結果は記録なしにせざるおえませんなぁ?ねぇ、クーベルズ先生?」
そこ男はニヤニヤしながら、クーベルズ先生の方を見る。
「いや、しかし、私とクラスの生徒たちは確かに見ました!彼が召喚魔法を使った後、とんでもない魔法を使って────!」
「しかし、先生のクラス以外、外部の者は誰一人見ていない。そうですよね?」
そう言われると、クーベルズ先生は苦しそうな顔をする。
「…!」
「嘘はいけませんなぁ。自分のクラスの者の評価を上げたいのはわかりますが、それは不正というものですよ。」
どうやらクーベルズ先生は俺を庇ってくれているみたいだ。
とういか、そもそもこれはなんの会議なのか。
俺の記録を不正だと言う小太りの教師。それを否定して事実を伝えようとする。クーベルズ先生。誰一人何も言わない他の教師。
「どういうことかわかりませんが、もう一度召喚魔法を使えばいいんですか?」
俺はクーベルズ先生の方を見て、男の話に割って入る。
「そ、そうです。今ここにいる者たちで彼の魔法を見てもらえば…」
「先生────。」
そこで、小太りの横の金髪の女教師が初めて口を開く。
「どうしてそんな庶民のために、私達貴族がそこまでしてあげなければいけないんですか?」
そいつのその一言で俺はこの会議がなんのためのものか大体理解できた。
こいつら、貴族の生徒の面子を保つために、俺の記録をなかったことにしようとしてるのか。
「なら、召喚魔法だけでも見てあげてください!それくらいなら一瞬で終わるでしょう!!」
クーベルズ先生は机を叩きながら怒りを露わにする。他の教師たちはそんな先生の様子を見て嘲笑していた。
「まあまあ、皆さん。それくらいなら見てあげてもいいんではないですか?フフッ。」
俺は隠す気もない差別意識の権化たちを睨む。おそらくだが、クーベルズ先生も立場が弱いのだろう。俺一人なら馬鹿にされるくらいなんともないが、ここまで庇ってくれた先生を放置することなんてできない。
「神器に届きし魔の杖よ、契約に従い我が元に顕現せよ。来い。魔杖オルカン───。」
俺はわざわざ詠唱での召喚を行う。俺の手元にオルカンが呼び出され、全員の目が俺の杖に集まる。
「これでいいですか?」
俺はオルカンを前に突き出して、
「赤い魔石────…」
「馬鹿な…なぜ庶民が────…!」
先生たちは口元を隠しながら小声で会話し始める。そして、だんだんオルカンの方を見ながらニヤ付き始める。
これは不味い。
「絶対に耐えろ。命令だ。」
俺はオルカンにそう言い聞かせる。オルカンは俺の命令なしに、自分で人形形態と杖形態を自由に変えることができる。そして、彼の感覚は全て魔力感知によって賄われている。
つまり、杖であろうが人形であろうが、オルカンには全て聞こえている。
「…まあ、今召喚したとして、何の意味もないですがね。テストの後で覚えたのかもしませんしなぁ?」
その物言いにクーベルズ先生は更に怒りをぶつける。
「そんなものこじつけだ!アゴス先生、なぜ彼の力を認めない!?」
「言いがかりはやめていただきたい。私は当たり前のことを言っているだけですよ。ですが────。」
アゴス先生は笑いながら席を立ち上がり、俺の元まで歩いてくる。
「その杖は少しだけ興味深い。庶民にはその価値がわからんだろうがな。私が研究対象として見てやろう。ほら、寄こしなさい。」
俺はオルカンを帰還させようとする。だが、オルカンは帰還を拒否して、強引に人形になろうとする。
「…!断ります。オルカンは俺のものだ。誰にも渡さない。」
「なんだと貴様!貴族である私にその口の利き方はなんだ!黙ってさっさと寄こせ!」
俺が拒否すると、アゴス先生は強引にオルカンに触ろうとする。
そして、俺が持ち上げるよりも一瞬早く、彼の手がオルカンに触れてしまう。
「だめだオルカン────!」
俺が言い終わる前にオルカンが机の上に降り立つ。触れようとしていたアゴス先生はいつの間にか顔面を蹴り飛ばされていた。
そして、床に倒れているアゴス先生をゴミを見る目で見下す。
「殺す。”エンゲージ”────。」
「やめろ、オルカン!」
俺は急いでオルカンに抱き着いて机から無理やり降ろす。オルカンはすごい形相でイツキとクーベルズ先生以外に殺意を振り撒いていた。
「てめえら全員俺の主人に嘗めた真似しやがって!生きてここから帰れると思うなよ!!
「だめだオルカン!止まってくれ!」
スターダストレンジの形がどんどん変形していく。本当に不味い。このままいくとこの教室だけでなく、王都全体が消し飛ぶことになる。
「
「強制帰還!」
俺がそう唱えると、オルカンの姿が瞬時に消えてなくなる。発動主がいなくなったことにより、変形途中だったスターダストレンジは光となって消滅していった。
危なかった。まさか話はこんな方向に進むとは予想していなかった。こんなことになるとわかっていたら、オルカンを召喚しなかった。
「お前…!貴族である私にこんなことして、ただで済むと思うなよ!!」
アゴス先生は回復魔法を使って立ち上がると、俺の方に掴みかかってくる。
「グルルラァ!!」
次は肩に乗っていたヴァ―レンが、アゴス先生に向かって火球を吐き出す。
「熱いぃぃい!!」
ああもう踏んだり蹴ったりだ。
「ヴァ―レンも落ち着け!後で遊んであげるから!」
「グラァァ!」
だめだ。完全に怒りに呑まれている。もうここに居る方が被害が広がりそうだ。
「もう帰ります。俺の記録ならゼロでもなんでもいいんで、適当に決めといてください。失礼します。」
俺はそれだけ言い残すと、アゴス先生に飛び掛かろうとするヴァ―レンを必死に宥めながら会議室を後にした。
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