第45話 閑話 怒り

「じゃあ、ここで待ってるんだぞ。少ししたら戻ってくるからな」

 私はその言葉を聞いて元気よく返事をする。

「キュイ!」

 周りを見ると、そこかしこに見たことない餌がたくさんうろついていた。

 だが、あれらは全て食べていけないらしい。でも、私は大丈夫。さっきお肉を買ってもらう約束をしたのだ。だからちゃんと我慢することができる。

 あっ。元に戻って良いのか聞くの忘れた。

 私は普段、自分に小型化の魔法をかけている。そうじゃないとこの町には居られないと言っていた。でも、これだけ広いなら、少しくらい元に戻っても大丈夫そうな気がする。

 私はどうしたものかと思いつつ、キョロキョロしていた。

 すると、私に降り注いでいた日光を遮るものが現れる。顔を上げると、そこには金色の竜がこちらを見下ろしていた。

『お前、そこで何してる?』

 そいつは竜にだけ聞こえる声でこちらに話しかけてきた。

『別に。何もしてない。用がないならどっかいけ。』

 私はつるむ気が無いことを伝える。ざっと魔力の大きさを見たが、こいつは弱い。私の6割程度の魔力量しか持っていない。それに体にも戦った跡が一切ない。きっと今まで戦いから逃げてきたんだろう。

『その程度の大きさのくせに、生意気な!』

『そんなちっぽけな魔力しか持っていないお前に言われたくない。』

 私はそいつを無視して広場の奥の方に飛んでいった。


 しあわせ~

 私は今この世界で一番気持ちいいところにいる。

 広場の奥に飛んでいった私はそこでもふもふの餌をみつけた。そいつは曲がった角にモコモコした毛、四つの足を持っていた。

 お腹にかぶりつきたかったが、だめなので我慢した。その代わりと言ってはなんだが、私はそいつの上でお昼寝することにした。着地すると足にモコモコした感触が伝わってくる。いい感じだ。

 寝ようと丸くなっていたそのとき、私の上に何かが乗ってきた。

 普段触られることは大嫌いなのだが、なんとそいつももふもふだったのだ。ちらっと目を開けると、モコモコした白い小鳥がたくさん飛んできていた。そして、私と同じようにモコモコの上でお昼寝し始める。美味しそうだが、こいつもモフモフ。ならば今回は許してやろう。

 上もモフモフ。下もモフモフ。私は幸せな時間をゆったりと過ごしていた。たまにはこういう時間も悪くない。

 ゆったりとした時間が流れ、そよ風が顔を凪いでいく。空も晴れており、穏やかでお昼寝にはもってこいの天気だった。

 そのまま眠ってしばらくは平和な時が流れていた。

 私の周りで眠っていた小鳥たちが一斉に飛び立ち、居なくなってしまった。何がおきたのかと目を開けると、私はまた何かの影に入る。

『見つけたぞ。このチビ!』

 そこにはさっきの弱い奴がいた。

『俺から逃げるなんて。やっぱり弱いんだろ。』

 私は無言のまま起き上がり、再度どこかに飛び立とうとする。

『また逃げるのか?逃げてばかりの弱虫!お前の主人もお前のように弱いに決まっている!』

 その言葉を聞いて、私は飛び立つ方向を変える。

『もう一度言ってみろ。』

『何…?』

 私は自身に掛けていた小型化の魔法を解除して、空に飛び上がる。そして、一際大きな咆哮を挙げる。


が弱いって!?』


 私は口元に炎を走らせながらその金の竜を見下ろす。

『え…?まさか、それが本当の───。』

『もう一度言えと言ったんだ!』

 私は再度大きな咆哮を挙げる。

 周りにいた魔物たちが一斉に離れていった。だが、そんなことはどうでもいい。

 こいつ馬鹿にしやがった。私の世界一大切な人を、馬鹿にしやがった。

 自分のことならただ不快なだけだったのに、なんだこの怒りは。今すぐこいつを殺したくて堪らない。ズタズタに引き裂いて、こいつの飼い主に雁首を晒させないと、気が収まらない。

 私が一歩を踏み出すと、そいつが一歩下がる。

 ここまで本気で殺したいと思ったのは久しぶりだ。私は魔力を集中させ、そいつの背後の町もろとも焼き尽くそうとした。

 だが、そこで待ったがかかる。

「ヴァーレン、落ち着け!今すぐ小型化してこっちに来い!」

 攻撃しようとしたところで聴きなじみのある声が下から聞こえてきた。

『あ、あの…』

 私はそいつを見下ろすと、口の中の炎を小さくしていく。

『自分の幸運に感謝しておけ。』

 私はそう言うと、自分に小型化の魔法をかける。


 そして、いつもの腕の中めがけて飛んでいった。


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