第43話 実技

 俺はヴァーレンを肩に乗せて訓練場まで歩いて行く。そこには大きく分けて二つのブースが作られていた。

 俺は試験の用紙に目を通す。

「えーっと…『実技試験は二回。一回目は試験者の正確な力量を測るために大学側が用意した杖での的当てを行う。二回目は持ち込み可。なお二回目はアイテム、命を落とす魔法以外は、生物を含め全てが許可されます。皆様の真の実力が現れます。ご注意ください。』真の実力…?」

 何か含みのある言い方だ。この実技試験で何か見ているのだろうか。

 俺は列に並びながらその意味を考える。実力なら一回目の試験で計れる。真の実力とは一体何を指している?

「なんで…!あんなに頑張ってきたのに…!?」

 その声を聞いて、俺は顔を上げる。そこには泣きながら二回目の方に歩いて行く一人の少女の姿があった。

 その子だけではない。

 他にも思うような結果が出なかったのか、何人も沈んだ顔をした人たちが歩いて行った。

「そこの男の子、一回目、10番の中へ行ってください。」

 俺のことだ。

 俺はヴァーレンを連れて、そのまま歩いていく。


 この試験何かある。


 私は貼り付けた笑顔のまま、教師たちの観覧席で座っていた。横の女教師が声高らかに自慢していた。

「───ですから、私の推薦したミーディアの者はすばらしい素質を持っています。なんと、推薦にあたって、大学への多額の寄付もいただき───。」

「それはすごい!それほどまで我が子のために身を切るなんて親として誇りに思えるでしょうな!あっはっはっ───!」

 なんという下品な笑い方なのか。

 この大学の推薦枠は一教師につき二人だ。そして、大きな貴族などは大体それをお金で買っている。私のところにも何件も打診が来ていた。

 最後の一枠を是非売って欲しい、と。鬱陶しいので全て断り、私は自分が教えたいと思える子を一人だけ推薦していた。

「そういえば、イツキ先生。最後の一枠、決まったんですってね?」

 私は笑顔のままその女教師の質問に答える。

「ええ、最高の魔法使いがいましたので。」

「へぇ…まあ、平民上がりの先生は貴族の社会がわからないでしょうし、それでいいと思いますよ。ふっ。」

 私は笑顔のまま何も言わない。こんなやりとりは日常茶飯事だ。

「いやはや、しかし、今回の実技は少々キツくしすぎましたかな?」

 教師の男がそんなことをぼやく。

「まあ、これも試験ですから。狭き門を通ってこそ我が校の生徒にふさわしいというものです。」

 私を除いて、周りの教師たちがうんうんと頷いている。

 私が一階を見下ろしていると、エルラドが10番のところに入っていった。

「おや、あれはナガラ先生が推薦した子では?さて、彼は当たりを引けますかね?ふふふっ。まあ、せっかくなのですから、女神様にでも祈っておけば良いのでは?」

 私は何も言わない。

 祈る必要もない。


 何故か。


 信じているのではない。

 知っているのだ。

 彼の実力を。


 エルラドは目の前に置かれた5本の杖の中から真っ先に正解の杖を選ぶ。

 そして、普段と同じように言われた魔法を発動していく。

「チッ。運がいい子ね。」

 この実技試験で測っているのは魔法の威力と精度だけではない。この試験で見ていることは自分に合う杖を選べるかどうかだ。

 普段は魔法使いは自分に合った杖を使う。でも、それは店の人や師匠に選んでもらう人が多い。中には理由もわからず、その杖を使えと言われて使ってる人も居るだろう。

 それではだめなのだ。

 この学校に入る者なら、自分の相棒について理解していないなんて論外だ。杖は魔法使いの半身。そのことを身を持って知ってもらうための試験なのだ。

 だが、救済措置もある。それが二回目の実技試験。もしなんでもありのこちらで優秀な結果を残したのなら、合格することもある。芽のある子を無闇に落とさないようにするのが二回目だ。

 ただし、こっちで合格ラインまでいった子には、入学後に杖に関する授業を受けることを義務付けられる。

 逆に正しい杖を選べても、二回目であまり良くない結果だと、これも落とされる。

 実力と知識。両方を測っているのだ。

「さあ、エルラド。派手にやって良いわよ…!」

 私は期待の眼差しで彼を見守る。当然使うのはあの魔法しかない。

 おもむろに彼は的の方を指さす。


 そして、放たれたのは───。


「グルルラァァ!!」


 エルラドに強化された竜の火球だった。


「なんで!?」

 私は動揺する。流石にあれだけ言えば使ってくれると思った。だが、彼はオルカンを取り出すことすらなかった。

「ほぉ、竜を従えるとは珍しい。あの威力なら合格は間違いないでしょうな…」

 違う。

 彼の凄さはこんなものではない。

「エルラド…」

 私は観覧席を立つと、彼のもとに急いだ。


「…で、あれでいいの?」

 俺は背後に控えていたメイドさんにそう尋ねる。

「はい。ありがとうございました。では予定通り、入学費用はこちらで負担させていただきます。」

 あまり、面白くはない。夢もロマンもない。だが、現実とはこういうものだ。

「このことはどうかご内密にお願いします。」

「わかってます。じゃあ、俺はこれで。」

 面子の問題らしい。王族をやるのも楽じゃなさそうだ。俺はさっきの金髪の少女を遠目で眺めて、訓練場を後にした。


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