第42話 試験

 試験会場になっている校舎の中に入る。なお、連れている魔物がいる場合は校庭に待機させるように言われた。実技試験で合流できるらしい。

 俺は席に着くと時間になるまで待つことにした。周りでは本を読んでいる子や、メモ帳を開いている子が殆どだ。みんなギリギリまで勉強している。遊んでいるやつなんて一人もいない。

 みんな必死なのだ。

 そんな中にこんな何も心構えのない俺が入って大丈夫なのだろうか。でも、俺の入学はもう決まってしまった。なら、俺は俺なりにこの試験に真剣に挑むしかない。

 今までアスティアに教えてもらったことを思い出していると、一人の老人が教室に入ってくる。

「それではあと一分で試験を始める。持ち物をしまうように。」

 そう言われると、全員さっと勉強道具を片付ける。そして、十秒前になると、机に筆記用具と用紙が召喚される。

「四章と五章は好きな方を選ぶように。制限時間は一時間。では、はじめ。」

 その言葉と共に全員一斉に問題集を開く。俺も開き、最初に問題の難易度を一通り確認する。


 一章、各魔法基礎

 二章、魔方陣について

 三章、詠唱魔法について

 四章、立体魔方陣について

 五章、杖について ※なお四章と五章はどちらか選択可。


 なるほど。四章と五章はどちらか一方だけ答えればいいらしい。三章までは回答を選ぶ選択肢形式の問題。四章と五章は筆記問題になっていた。俺は問題用紙をめくる。


 問1、ファイアーボールの詠唱として正しいものを選べ。

 問2、ライトチェイサーの魔法効果で正しいものを選べ。

 問3、飛行魔法発動中に残り魔力が少ないとき、魔法に出る影響で当てはまるものを全て選べ───。


 俺は詰まることなく、すらすらと問題を解いていく。今のところ特に迷うような問題はない。

 しかし、良い問題だ。魔法の効果だけで無く、それの付属した現象など、面白いところを突いている。これはそれぞれの魔法を普段からよく使っていないと中々キツい問題だ。

 頭で覚えるのと実際に使ってみるのとでは天と地程の開きがある。使ってみると魔力の制御がアホほど難しかったり、魔法の維持にとんでもない集中力を取られたりするものもある。

 この問題集は実際にその魔法を使ったことのある人に向けて作られている。とにかく暗記だけをしてきた人たちは苦しいだろう。

 三章までの問題を解き終わり、楽しみにしておいた四章の立体魔方陣に移る。


 問1、積層型魔方陣との違いを書け。

 問2、これはとある魔法を立体魔方陣で表した物である。この魔方陣を起動したときに発動する魔法を答えよ。

 問3、エアーブラストの立体魔方陣を用紙に投影せよ。


 まあ、こんなもんか、という感想だ。

 そりゃ対象は基礎を修了した中級者向けの問題だ。それこそ超位魔法なんて問題で出されても全員「はぁ?」で終わるに決まっている。少し期待しすぎていた自分をたしなめる。

 一問目は簡単。二問目の答えは一章の一問目に書いてある。最後のエアーブラストは高等魔法。

 最後はやれるだけやってみろ、というタイプの問題だろう。

 幸い、時間は山のように残っていた。懇切丁寧に各魔法式の意味とそれによって生まれる効果まで書いておいた。これで四章は満点だろう。

 その後は見直しをして、適当に時間を潰すことにした。


「…では、やめ。お疲れさん。次は実技じゃ。訓練場までのルートは試験用紙にあるとおりじゃ。あと魔物を連れてきた者たちのお。校庭に行って、連れの魔物を返してもらってから訓練場に行くように。」

 老人はそれだけ言うと、教室から出て行った。そして、扉が閉まった瞬間、糸が切れたように一斉に試験者たちが話始める。

 やれ「あの問題は簡単だった」だの、やれ「四章と五章は頭がおかしい」だの、色んな声が聞こえてくる。

 俺はとりあえずヴァーレンを迎えに行くために、校庭に行くことにした。


 校舎の外に出ると、ヴァーレンが普通のサイズに戻っているのを遠目に発見する。

 何か問題でもあったのかと思い、急いで校庭の方に走っていく。

 植え込みを曲がって校庭に行くと、たくさんの生徒がヴァーレンを物珍しそうに見ていた。

 だが、俺が気になったのはそこではない。


 ヴァーレンの他にもう一体、金色赤眼の竜がいたのだ。


 その竜は酷く怯えており、頭を下げて上目遣いをしている。対するヴァーレンの方は敵意丸出しであり、金色の竜をすごい形相で睨み付けていた。

「ちょっとすいません。通ります。すいません。」

 俺は試験生の波をかき分けながらヴァーレンの足下まで走って行く。


「ヴァーレン、落ち着け!今すぐ小型化してこっちに来い!」

「ヴォーグル、何をしてるのですか!今すぐやめなさい!」


 俺とほぼ同時に女の人の大きな声が校庭に響き渡る。

「キュゥゥ…!」

 金色の竜はヴァーレンに怯えきっており、小さい声を漏らした。

「グルルラァ!!」

 対するヴァーレンは何があったのかというくらい激怒していた。

 俺は飛行魔法でヴァーレンの顔の前まで飛んでいく。

「落ち着け!何があったのかは知らんが、とりあえず小さくなってくれ!」

 ヴァーレンは俺の方に視線を動かすと、不満そうに小型化の魔法を使う。

 そして、そのまま俺の胸に飛び込んでくる。本当に何があったのというのか。普段ヴァーレンは触られなければそこまで怒ることはない。これまでの旅で人の視線にも少しずつ慣れ始めてきていた。

 俺は不審に思いながらも金色の竜の主人に謝りに行く。

 そこにいた子は綺麗な金髪をしており如何にも貴族といった見た目の令嬢だった。紺碧の目を持っているようだ。ロングの赤いスカートに白い長手袋を合わせており、派手になりすぎないよう上手くコーディネートされている。

「あの、すいません。うちの子がご迷惑をおかけしたみたいで。」

 俺は頭を下げながら少女の方に近づいていく、

 声を掛けると、その少女は振り向て、急いで頭を下げてくる。

「私としたことが相手方への謝罪もなく、大変失礼いたしました。この度は私の監督ミスでご迷惑をおかけしました───。今は試験があるので、この辺りで失礼させていただくことをお許しください。正式な謝罪の場はまた日を改めて、設けさせていただきます。」

「ああ、いえ、こっちこそすいません。この子にはよく言い聞かせておきます。ごめんなさい。」

 少女はスカートの裾を摘まんで礼をすると、お付きの人と一緒に訓練場の方に歩いて行ってしまった。


「胸でっか…」


 俺がそうつぶやくと、ヴァーレンが俺の首筋に強めに噛みついてきた。

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