第41話 騎乗

 俺は宿屋で一人、目を覚ます。今日はイツキに入学に必要な諸費用を算出してもらう予定だ。

 水魔法を使って顔を洗い、身支度を整える。若干頭が寝ぼけている。昨日は朝、オルカンの機嫌が悪くて大変だった。

「今日は一日俺とデートしろ。異論、反論、口答えは一切認めない。」

 そう言うとオルカンは今まで貯めていた自分のお金を使って、アクセサリーを買い漁っていた。

 オルカンの見た目がドンドン華やかになっていく。

 当然いつもは外させている。俺が杖に組み込んだのは変形だけだ。杖に巻き付けてある布をドレスに、本体を人形に変形させることで、あの状態を作り出している。アクセサリーを付けることは想定してないので、今後また改修が必要だろう。

 ヴァーレンを起こして肩に乗っけると、俺は宿屋を後にする。

 外に出ると、なんだか昨日よりも人通りが多い気がした。特に若者の数が増えている。何かあるのか少し気になったが、宿屋の前で時間まで彼女を待つことにした。

「おはよう、エルラド!ちょっとごめん!急いでもらっていい?」

 少ししてイツキが走ってきた。だが、呼吸が乱れており、かなり急いで来たことがうかがえる。

「おはよう。何かあったのか?」

 俺はのほほんとしながら聞き返す。

「試験あるの、忘れてた!」

 俺はその言葉を聞いて、とてつもなく嫌な予感がした。

「えぇ…?」


 俺は馬車の中でメイドに身だしなみを整えさせる。向かいに置かれた鏡には俺の格好いい姿が映っていた。今日もいい顔をしている。

 俺は馬車の中から降りる。すると、そこにはたくさんの受験生が集まっていた。

「あいつ、ミーディア家の息子だぜ。」

「金もってんなぁ…」

 周りから俺をもてはやす声が聞こえてくる。

「やれやれ。少し、鬱陶しいな。」

 俺が乗ってきた馬車は今日のために作らせたものだ。他の貴族の物より頭一つ抜けて豪華に装飾されている。流石に王族には負けるが、あれはそもそも比べるような対象ではない。

 王族がまだ来ていない事もあり、俺が周りからの視線を全て集めてしまった。できれば目立ちたくはないのだが、こうなってしまっては仕方が無い。

 そう思っていた時だった。

 空いていた俺の馬車の真横のスペースに、隕石でも降ってきたような轟音と共に、何か大きなものが落ちてきたのだ。

「なっ!?シ、シールド!」

 大量の土埃が舞う。それを魔法で防御しつつ、土埃が晴れるのを待つ。周りの生徒も皆魔法で防御していた。

「早すぎるよエルラド!」

「だってお前が急げって言うから…」

 その中から何か大きな影と共に二人の男女の話し声が聞こえてくる。

「急いでとは言ったけどやり過ぎ。」

「はいよ…」

 そこには大きな銀色の竜が立っていた。その巨大な翼をはためかせると、周りの土埃がすぐに消し飛ぶ。

「りゅ、竜!?」

「どうなってるの!?そういうサプライズなの!?」

「デカすぎんだろ…」

 周りの生徒にざわつきが広がっていく。門の外からも通行人が、話を聞きつけ、野次馬のように集まりだしていた。

「試験生全員、静粛に!私は本校の教師のイツキ・ナガラと言います。これから試験の教室に皆さんを案内するので、校舎側に移動してください!関係ない人は敷地内に入らないように!」

 ババアがそう言うと、周りからは安堵の声が聞こえてくる。

「やっぱりそういう演出なんだ。本物の訳ないよね。」

「焦った…でも、めっちゃ楽しいサプライズだぜ。俺、絶対入りたい!」

「俺も入学してぇ!」

 そう言うと生徒たちは俺を無視して、校舎の方に歩いて行ってしまった。

「あのクソババア…!覚えとけよ…!!」

 俺は静かに口元を歪めた。


 俺とイツキは飛行の魔法を使ってヴァーレンから降りる。

「助かったよヴァーレン。今度お肉買ってやるからな。」

「グルルゥ…」

 ヴァーレンは嬉しそうに頷くと、小型化の魔法を自身にかけて肩に飛び乗ってくる。初めてヴァーレンの背中に乗ったが、クソほど寒かった。風が強すぎて基本的に轟音しか聞こえないし、掴まっているのも大変だった。今度乗るときは何か騎乗用の魔法を開発しておいた方がいいだろう。

「で、俺はどうしたらいいの?」

 イツキは俺の試験用紙を手渡してくる。それを受け取り、自分の割り振られた番号と教室を確認する。

「推薦だから落ちることはないよ。でも、試験で規定の得点を超えた上位5人は、入学費用を免除して貰えるんだ。だから、本気でやっていいよ。」

 イツキは悪い笑顔でそう答える。

「…マジで言ってる?」

 俺は不安げな顔でイツキに聞き返す。

「大マジ。仮にも大学だからね。みんな基礎は学んできてる。むしろ独学のエルラドが一番勉強してないまであるかもね。」

 そんなことまで言われたら流石にやる気が出てくる。俺のやり方とアスティアの教えが、この国でどれだけ通用するのか挑戦してやる。

「実技は的当てだから。気にせずぶっ放していいからね。」

「ほーん、わかった。行ってくる。」

 ヴァーレンとオルカンと共に俺は試験会場に向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る