第35話
ギリギリだったが、なんとか間に合った。
長距離砲に変形させたスターダストレンジを解除して、魔族がいたところまで歩いていく。
魔族が残していった核を回収する。この体になって初めて手に入れた赤い魔石。使い道はたくさんあるだろう。だが、それよりも、先にやらなければいけないことがある。
俺は振り返って、マリーの方に歩いて行く。
「ルー君…」
その姿はボロボロで、土で薄汚れていた。あちこちに火傷をしており、彼女が何をしていたのかを物語っていた。
「ごめん、遅くなった。よく頑張ったね。この村を守ってくれてありがとう。」
俺はマリーのことを抱きしめる。俺が目撃したのはマリーが倒れているところだけだ。でも、そこに至るまでにあの魔族と死闘をしていたのだろう。
彼女が握っていた杖が右手からこぼれ落ちる。
「…怖かった。怖かったよ…!ルー君、助けてくれてありがとう…」
マリーは俺を抱きしめ返すと、わんわん泣き始めてしまった。
当然だ。初めての実践。それも相手がこの世界でトップクラスの存在だったのだ。いくら敵が死にかけだったとは言え、一般人が太刀打ちできるような相手ではない。
ヴァーレンに任せることだってできたはずだ。でも彼女はそれをしなかった。守るために、自分が矢面に立つことを選んだのだ。
懐かしい。
ふと、かつての仲間たちの影が見えた気がした。
彼らもまた守るために立ち上がった者だった。もう殆どいなくなってしまったが、彼らが守った世界はしっかりその意思を継承していた。
俺はハンカチを取り出して、マリーの顔を丁寧に拭く。
回復魔法をかけて全身の傷を治療し、傷跡が残ってないかも確認した。
「マリー。」
俺は極限まで疲労している彼女を刺激しないように優しく話しかける。
「なに?」
「大好きだよ。」
俺はそう言うと約束通りマリーに口づけをする。本当は適当に誤魔化して終わるつもりだった。でも、こんなになるまで戦ってくれたマリーに対して約束を反故にするのは、あまりにもな仕打ちだ。
「うん。私も大好き。」
彼女は開口一番そう言うと、再度俺のことを抱きしめた。
それから時間は流れ夜になり、俺は一人で家にいた。
今回の事件。結果的に言えば計二十人以上の死者を出してしまった。先手を取られていたとは言え情けない結果だ。
そして、その死者の中には俺の両親もいた。
間が悪いことに兵士の詰め所にお母さんが寄っていたときに魔族が来たらしい。
「君のお父さんは最後までみんなを守ろうとしていたよ。兵士として立派な最期だった。」
逃げ切った村人にそう聞かされて、俺は短くお礼を言うことしかできなかった。
なんとなく予想はしていた。魔族の分身一つがノノベ村に逃げ込んでいると探知したとき、頭によぎったのだ。もしかしたらお父さんは助けられないかもしれない、と。
だが、まさか両親二人とも亡くなるとは予想していなかった。なんだか自分の心に穴が開いたような感覚だ。
つい朝にはあったはずの日常が、半日でここまで破壊されるとは。残ったのはこの大きな家にたった一人。ヴァーレンもいつも庭で寝ているので、この家でこんな静かな夜は初めてだ。
「あ。」
そうだ。マリーの家に回復薬の材料があるはずだ。今日の戦いで傷を負った人も多いだろう。明日からは破壊された建物の再建、死者の弔いとやることがたくさんある。もう夜遅いが、明日怪我人に渡す用の薬を作っておくのがいいだろう。
俺はヴァーレンを置いて、一人でマリーの家に向かうことにした。
家の外に出ると、空は薄い曇り空だった。だが、月明かりは差しているので魔法を使うほどではない。俺は慣れた足取りでマリーの家の方に歩いて行く。
殺された人の遺体は一カ所にまとめたが、地面に飛び散った血痕などはまだそのままだ。
俺がもっと早く来ていれば。こんな被害は出なかったかもしれない。両親は生きていたかもしれない。傲慢かもしれないが、そう思わずにはいられなかった。
考え事をしながら歩いていると、マリーの家に着いた。流石にもう寝ているだろう。彼女も今日は酷く疲れたはずだ。
あれ…?
俺がマリーの部屋の窓を見るとまだ明かりがついていた。ということは起きているのだろうか。夜なので周りに迷惑にならないよう、家のドアを小さくノックする。普段ならこれで気づいてくれるのだが、今日はいつまで経っても降りてこなかった。
何か変だ。
俺はドアノブに手をかけて引くと、玄関の鍵は開いていた。そのままマリーの部屋の方に向かう。もしかしたら明かりを付けたまま寝てしまったのかもしれない。火を使っていたら危ないし、一応確認した方がいいだろう。回復薬の材料は、書き置きを残しておけば十分だろう。
そんな軽い気持ちで階段を上がった。
「…っ!───。」
「…!っ!」
なんだ?マリーじゃない誰かの声が聞こえてくる。それも何かを叩くような変な音も一緒だ。彼女の部屋の扉の前に来るとその違和感は確信に変わる。
「ああっ!あっ!あっ!」
「おら!イケ!もっと喘げ!」
マリーの部屋の中から絶えず嬌声が聞こえてくる。何かを打ち付けるようなるような音が終わると、次は何かを下品に啜る音が聞こえてきた。
俺は無言のまま静かにマリーの部屋のドアを開ける。
そこには、ベッドの上で勢いよく男の股に吸い付くマリーがいた。
裸のマリーの股からは白濁液が溢れており、それを自身の手で必死に股の奥に押し込んでいる。
「おー…でる。あー。喉奥暖けぇ…」
男がそうつぶやきながらマリーの頭を無理矢理股に押さえつける。マリーの方も喉をゴキュゴキュ言わせながら必死に飲んでいる。男がマリーの大きな尻をバチンと叩くと、マリーの体は激しく震え、股からは勢いよく吹き出していた。
「全部飲めよ。俺の子供孕ませてやるんだ。あ、あいつには黙ってろよ?あとお前の体にも二度と触れさせねえ。俺に無断でキスまでしやがって!てめえもなに受け入れてんだ!!雌豚!!」
そう言って男はマリーの尻を再度叩く。
「ごめんなさい!そのあまりにも純情すぎて、かわいいなって思っちゃいました!」
「あと、昼の態度はなんだ!早く謝れ!!じゃないと帰るぞ!!」
「ごめんなさい!!謝ります!だからもっと犯してください!孕ませてください!」
マリーは股を大きく開きながら、自分の胸を揉んでおねだりする。そして、そこでようやく俺の存在に気がついた。
「え…」
さっきまで下品な顔でノリノリだったマリーの顔が青くなっていく。
「な、なんで…」
「おい、どこ見てんだ!ちゃんとこっちみ、ろ…」
男の方、ダニエルも俺に気がつくと絶句してしまう。
「ん?ああ、気にすんな。もう帰るから。ああ、あとマリー。」
マリーの顔は蒼白になっており、体は震えていた。
「ま、まって…」
「愛してたよ。バイバイ。」
俺はそれだけ言うと自分の家に帰った。
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