第10話 ノノベ村
オルカンの調整を一通り終えた俺は、リビングでお母さんと昼ご飯を食べていた。
「ごちそうさま。ねえお母さん、外で遊んできてもいい?」
俺は食べ終わった食器を運びながら、お母さんに外に行く許可をもらう。
「ええ、いいわよ。今日もお手伝いありがとうね。何度も言っていることだけど、村の外に出たらだめだからね。マリーちゃんと一緒に遊ぶのよ。」
「わかってるよ。いってきます。」
「いってらっしゃい。」
俺は一人で外に出て、まずは家の周りを一周する。家の柵や庭に異常がないことを確かめる。
昨日と変わりないな。よし。
今日も何もなかったことに安堵しつつ、村の外れの方に歩いていく。
ここ、ノノベ村はいたって平和な村だ。周りには森があるが、村の外周には魔物除けの魔道具が設置されていて、知性の低い魔物は近づかないようになっている。それを越えてくるような強力な魔物は、お父さんのような村の兵士が間引きをしている。それによって森の個体数もある程度管理されており、ここの平和は維持されている。
俺が戦わなくてもいいというのは本当に助かる。メリグでは強力な魔物が出現するたびに町から討伐依頼が出されて大変だった。
命がけの戦いなんて、やらない方がいいに決まっている。
だが、それはそれとして、俺にも調べなければならないことはある。森に入るなと言われているので、いつも村の外周ギリギリまでしか探索できないのは歯がゆい。しかし、ここは俺にとってはまだまだ未知のことが多い土地だ。
限られた範囲でも調べられることはたくさんある。
なのだが────。
「あー、いけないんだ。まーた森の近くで遊んでる。」
俺はここ最近いつも耳にする声を聞いて、ジト目で振り返る。
そこには茶色い長い髪に緑色の目をした背の高い少女がいた。白いワンピースに薄手の上着を羽織っており、涼し気な雰囲気を持っている。
「…別に誰にも迷惑かけてないんだからいいじゃん。」
「だめだよー。ルー君には私が付いていないといけないんだから。で、今日は何をして遊ぶの?もう少し、村の中で遊ぼうよ。」
俺は近所に住む少女────マリアナ・ファロスの提案に待ったをかける。
「わかったよ。ちょっと採取したら戻るから。マリアナは先に行ってていいよ。」
俺はまだ調べていない草や花を籠の中に採取しながら適当にマリアナをあしらう。
「もー、≪≪マリー≫≫!何回言えばわかるの!あと、しれっと私を撒こうとしない!ルー君の考えてることなんてお見通しなんだから。」
こいつ…
最初はこうやって言っておけばさっさとどこかに行ってくれたのに、流石に使い過ぎて通用しなくなってきた。
「わかったって。あと少しだけ採取したら帰るから待っててよ。」
俺はこれまで採取したものの中で有用なものが生えていたので、追加で籠の中に放り込む。
「じゃあ、今日も後で私のおうち来るよね?」
マリーが目を輝かせながら昨日と同じことを聞いてくる。
「いや、今日はやめとこうかな。昨日も行ったし…」
俺がそう答えると、マリーの目から光がすっと消えて、声のトーンも低くなる。
「あーあ。そんなこという子には、もう紙あげないけど。いいのかなー?」
でたよ。
マリーは自分の要求が通らなくなるとすぐこの話をけしかけてくる。
この村には本がまったくない。比喩表現とかではなく、本当に一冊も存在しないのだ。
なので俺は村の人に聞き込みをしたりして、ここら周辺の植物図鑑を作っていた。本の編纂なら前世でも何度かやったことがあるので、そう難しいことではない。
ただ、ネックになったのが、肝心の紙とインクがないということだ。うちは生活に必要ないものにお金を回すことなんてしてくれない。当然三歳児が「紙が欲しい。」なんて言っても、「我慢しなさい。」で終わりだ。
そこで助け船を出してくれたのがマリーだった。彼女の父親は商会のリーダーをやっているそうで、少しづつではあるが紙とインクを分けてくれたのだ。
なので、俺はマリーの言うことに逆らうことができなくなっていた。
「わかった、行くから。そんなに怒らないでよ。」
俺はマリーの視線から逃げるように立ち上がり、村の方に戻っていく。
「怒ってないよ。ルー君が変な事言うからだよ。さあ、今日はどこに聞き込みに行くの?私がついて行ってあげるからね。」
「うーん。そうだなぁ。今日はお父さんのところにでも行こうかな。」
「じゃあ、兵士の詰め所だね。ほら、手、握ってあげるから、行こ!」
俺はマリーに強引に手を引かれて、お父さんがいる建物に歩いて行く。
もう少し自由が欲しいだけなのに、どうしてこうなってしまったのか。
村の兵士の詰め所に着くと、中でお父さんが他の兵士と談笑をしていた。
「お父さん、遊びに来たよー。」
「こんにちは。少しの間失礼します。」
俺たちが挨拶をすると、お父さんがこちらに駆け寄って来て、俺のことを抱え上げる。
「おールーカスよく来たな!お父さん嬉しいぞ。マリーちゃんも、いつもルーカスの面倒見てくれてありがとうな。」
「いえいえ、私からすれば弟みたいなものですから。ロムルスさんもいつもお疲れ様です。」
マリーがお父さんと軽い雑談をしている間に俺は机の上に紙とペンを準備する。
「じゃあ、お父さん。今日も草と花のことたくさん教えてね。」
「おういいぞ!お父さんに任せとけ!」
俺はやけに張り切っているお父さんに今日採って来た草を見せていく。そして、それらの名前や性質をメモしていった。
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