第9話 新たな日常
俺は今日も今日とて体内の魔力を練り上げ続ける。通常の場合、体の成長を待つことと、魔力の放出と生成を繰り返すことによって魔力量は増えていく。
俺は今回の人生では、魔力感知と飛行による情報収集で、計らずしも魔力を増やしていた。
だが、それとは別に魔力には質というものも存在する。魔素の純度が高ければ高いほど、少ない魔力で大きな魔法を使うことができるのだ。
この魔力の練り上げは前世から毎日続けて来た日課だ。アスティアに言われて、毎日続けるようにしている。彼女程の高純度の魔力を得るにはまだまだだが、一般人に比べればそれなりの質になっているはずだ。
この魔力の練り上げも最初は手こずったものだ。魔力を体内で回して、純度を上げた魔力を再度取り込む。それだけのことなのだが、これには魔力のコントロールという才能の差が顕著に現れる。できるやつはすぐできるようになるし、俺みたいにできない奴はかなり時間がかかる場合もある。
今となっては慣れたものだが最初は俺も苦労した。
「ルーカス、そろそろ起きる時間よ…て、もう起きてたのね。」
俺がベッドの上で座っていると、母親が寝室の扉を開けてくる。もうそんなに時間が経っていたか。俺はベッドから降りて靴を履くと、お母さんの方に歩いていく。
「お母さんおはよう。」
「おはよう。今日も一人で起きれて偉いわね。さ、お母さんと一緒に顔を洗いに行きましょうね。」
俺はお母さんに頭を撫でてもらいながら一緒に洗面所まで歩いてくる。
「昨日はよく眠れた?」
「うん。ちゃんと言われた通り早く寝て、早く起きてるよ。」
「そう。いい子ね。」
お母さんと小話をしながら、洗面所に行く。横に置いてある台をずらして、正面に持ってくる。
「お母さんもちゃんと寝れた?」
「え!?ええ、お母さんもよく寝たわ。」
「それならよかった。」
なぜこんなことを聞いたのかと言われれば、少しからかってみたくなっただけだ。まあ、ロザリーナもロムルスもまだ若い。そういうことをしたくなる年頃なのだろう。だが、毎晩毎晩喘ぎ声を子供に聞かせるのはさすがにどうかと思う。
蛇口を捻ると込められた魔法によって浄化された綺麗な水が出てくる。これは俺が最初に驚いた魔道具だ。こんな防壁も無いような小さな村で、井戸を使わずにここまで綺麗な水を用意できる。昔のメリグに居た俺なら信じられなかっただろう。マキエルもこの規模の村ではここまで発展してはいない。
人口が少ない村にも質のいい魔道具が行き渡るほどの交通網とそこを使う商人。そして、それらを一般人が購入できるレベルの金額。そこから推測できる魔道具の生産力。
どの角度から考えてもすごいことだ。
俺は顔を洗うと、お母さんにタオルをとってもらう。それで顔を拭いてから台を元の場所に戻す。
「それじゃあ、朝ごはんにしましょうか。」
「はーい。」
お母さんに手を引かれながら、俺はお父さんが待つリビングに歩いて行った。
「おお、ルーカスも起きたか。おはよう。」
「おはようお父さん。」
俺はお父さんに挨拶をしつつ、キッチンに行ったお母さんの後をついていく。
「はい。今日もお願いね。」
いつも通り料理が盛り付けられた皿を受け取ると、それを机まで運んでいく。
今日の朝ごはんはパンとスープとサラダの三品。非常にシンプルだ。だが、パンは子供の俺が簡単に食べられるほど柔らかいし、スープにもちゃんとした味付けがされている。前世の子供時代なんて、朝食は硬いパンだけが普通だった。それを思えばこの食事は十分過ぎるほど恵まれている。
三人で席に着くと朝食の時間になる。
この食事が食べられるのも両親のおかげだ。俺は食材と二人に感謝していつも通り朝食を食べた。
「それじゃあ、お父さん仕事に行ってくるからな。いい子で待ってるんだぞ。」
お父さんはそう言うと、俺の頭を撫でてくる。
「気を付けてね。いってらっしゃい。」
お母さんはお父さんの頬にキスをして見送りをする。仲が良いようでなによりだ。
「二人ともいってきます。」
お父さんを見送った後は俺とお母さんで家事に取り掛かる。少し前まではベッドの上で魔力切れになってぼーっととしてるだけだった。だが、その間もせわしなく家事をするお母さんになんか罪悪感を感じたのだ。だから、最近はできる限り手伝うようにしていた。
「じゃあ、今日も二階のお掃除お願いね。」
「うん。お母さんも洗濯頑張ってね。」
「ふふっ。ありがとう。」
お母さんが洗濯ものを洗いに行ったのを尻目に、俺も二階に上がっていく。自分の部屋に入ると、誰にも見られていないことを確認してからいつもの魔法を使う。
「召喚。魔杖オルカン。」
いつものように召喚魔法で相棒の杖を呼び出す。目の前に黒っぽい柄と大きな深紅の魔石を一つ、小さいのを一つはめ込んだ魔杖が出現する。
「おはよう、オルカン。今日も掃除するぞ。」
「おはよう。また掃除か。つまらんことばかりさせよって…」
「まあ、そう言うなって。どうせ一瞬で終わるんだから。」
俺は自分の杖の愚痴を聞きながら、次の魔法を使う準備をする。
普通魔法を使う時、魔法使いは杖を持つ。理由は簡単。その方が効率が良いからだ。杖にはめ込まれた魔石が使用者の魔力を増幅して、魔法を発動する上でのコストカットをしてくれるのだ。
当然こんなところを両親に見られるわけにはいかないので、いつもは手元には置いていない。
「それじゃあ、いくぞ。キュアエリア。」
俺は自分の部屋に浄化の魔法を使う。これで、この部屋は終わった。俺はこの調子で他の部屋の掃除もぱぱっとやっていった。
そしていつもの暇な時間がやってくる。掃除自体はいつも一瞬で終わるのだが、そのまま報告すればお母さんに怪しまれてしまう。
俺はいつ両親に自分の正体のことを話すか迷っていた。自分の子供が、実は前世の記憶付きの転生者だなんて、どう説明すればいいのかわからない。
「今日はどうするんだ?」
「今日は…お前の調整するか。昨日試したい魔法陣を思いついたからさ。」
「わかった。」
そう答えると、オルカンの姿が杖から黒髪赤目の美少女の姿になる。ゴシックのドレスを着ており、いかにも貴族の令嬢といった見た目だ。
ただし、見た目だけだ。
こいつのこの形態は魔法人形と同じで、皮膚はカチコチだ。かなり人間に寄せてはいるが、無性だし食事もできない。おまけにやっとの思いで発現した人格は男勝りだった。
そして、魔杖に付いている小さい方の魔石が本体なので、そこを破壊されると自我も無くなり、姿も杖のものに戻ってしまう。
昔アスティアと一緒に俺の専用の杖を作ろうとなった時があった。その時、俺は男のロマンとして、変形できる杖が欲しいと言ったのがきっかけだった。
作るのには時間とお金がかなりかかったが、結果的に満足いくものができたので後悔はしていない。
「じゃあ、脱いで。」
「はいはい。」
俺は全裸になったオルカンをベッドに寝かせる。
「ライトチェイサー。」
俺は魔力が光を帯びる魔法を使い。オルカンの中に組まれた立体魔法陣を可視化させる。
俺は久々に相棒の調整を始めた。
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