第8話 貴方は諦めなかった

拝啓、幸せをくれた貴方へ。



綾人、もう届くことは無いこの言葉をどうか聞いて欲しい。



お前はとんでもない嘘つきだ。


いつも平気なふりして周りのことばっか気にして、

自分を削って周りを照らす花火みたいに儚くて、


気づかないうちに壊れていってた、、。





自己犠牲の優しさ。



俺なんかより綾人にぴったりの言葉だと思った。自分なんてどうでも良くて、人が幸せならそれでいい。





和月先生に聞いたんだ。



結婚式行きたいからって治療を再開したこと。


見込みなんてほんの数パーセントなくせに、とんでもなく辛い副作用があって毎日苦しんでたこと。


車椅子生活になってからも足を動かすことを諦めなかったこと。




一緒にまた駅前のアイス屋に行くんだって、人気の店だから一緒に並ぶのに僕だけ座ってるなんて勿体無いじゃない、って言ってたこと。



そんなことで、、何でそこまでしたんだって思った。



どうして気づかせてくれなかったんだって思った。



俺もまた、いきたかった。


あそこのアイス屋は美味しいけど、それを待って並んでる間が一番楽しかったなって思ってたから。


当たり前だったものを綾人が命懸けで取り戻そうとしてたなんて知らなかった。


きっと二人とも同じこと考えてたんだと思う。



当たり前が、幸せだった。





メッセージで俺に何度も助けられたって言ってたけど、それはこっちの台詞。


綾人を見てるだけで強くなれた。

綾人と話してるだけで日々が楽しくなった。

俺より俺の幸せを願ってくれるひと。


病気のこととか親とか関係なく、大好きな幼なじみだった。


綾人の存在に助けられてた。


高校の帰り馬鹿みたいに笑いながら駅前のアイス食ったり、

留年危機の俺に勉強教えてくれたり、

彼女との話嬉しそうに聞いてくれたり、




そんな日常が思い出に変わって欲しくなかった。




いつまでも一緒に笑ってたかった。




いつか「病気になったのが僕で良かった」って言ってたな。

俺はそんな優しい人間にはなれない。


なんで綾人が、って何度も思って。何も出来ない自分に嫌気がさして、綾人から離れようとしたこともあった。



だけど離れられなかった。



何があっても、綾人が笑ってたから。

1番辛いはずの綾人が「大丈夫だから」って言ってたから。




生きることを諦めないでいてくれたから。




“死にたくない”、って。




気づいてあげたかった。

何も持ってない、何も出来ない俺だけど、


ずっと傍に居たかった。



「大丈夫」って、「綾人は強い」って、教えてあげたかった。





でも、何度でも言わせて欲しい。



綾人と出会えて良かった。


生きられて良かった。


幸せに生きてくれて良かった。



ありがとう。







俺も幸せだった。




本当に、ありがとう。



勿体ないくらい幸せな日々を。




まだ思い出には変えずに持っておく。











アイス屋、いつかまた行こうな。













藍原 律





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【人物まとめ】

藍原 律…成瀬の幼なじみ

成瀬 綾人…幸せをくれた人

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