第2章 『拝啓、親愛なる貴方へ』


『拝啓、星名 皐月様』





「何だこれ…。」


俺、星名 皐月ほしな さつきは退院のための片付けの最中、メモが貼られた本を見つけた。

綺麗な字だった。


名前が書いてあるから俺宛の物のはずだが全く見覚えがない。

恐る恐る一ページ目を開く。


そこにあったのはQRコードと一行の文。


『この本を、僕の声を、届けて下さい。』


正直何一つピンと来なかったが興味本位でQRコードを読み取る。


携帯には一本の動画が表示された。


『初めまして、星名 皐月くん。この動画を見ている時、多分君は僕のこと忘れてしまってるかな。』


「誰だ…?」


覚えのない顔、姿。

だけどこの暖かさは知っている気がする。



多分、





俺は、若年性アルツハイマーを患っていた。



二十五歳という若さで発症。入退院、手術を繰り返し病気の進行を遅らせることはできているが、完治させることは出来ないらしい。

五年たった今、覚えているのは家族と病院の人。

この先思い出す可能性も少しながら残っているそうだがそんな気配は今のところない。



『星名くん…いや、皐月には頼みたいことがあってこの動画を残してます。』


名前を呼ばれ身構える。

俺は基本友人には苗字呼びをさせていた。

皐月、という名前が女々しくて嫌いだったから。


だから、皐月と呼ぶ人は本当に大切だった人。


「何で忘れてんだよ…。」


悲しさと悔しさに襲われる。


『ここに書いてる人達にこの本を届けて欲しい。君がこの本を開いた時と同じように文と動画を用意してるから。一応届けて欲しい日付も書いてる。』


ぱらぱらとめくってみると十数ページにわたってコードと文、日付が残されていた。

日付は丁度明日から。

俺が見つけることを予期していたようで少し怖い。




『最後に僕の名前、伝えておくね。』











『僕の名前は成瀬 綾人。この動画を撮っている――年、僕は死にます。君には伝えて欲しい、』



心臓がドクンと鼓動した。









『僕の遺言言葉を。』






そこで動画は止まった。



――年から一年と半年ほど。


成瀬 綾人、君は俺の何なんだ…?






✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】


星名 皐月…若年性アルツハイマーを発症

成瀬 綾人…――年に亡くなった、皐月に遺言を託す



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