第22話 僕が持っていて欲しいもの

「…さいごはここか。」


僕はついに園を辞め入院することになった。

今更特別な治療をする訳では無く療養に切りかえての入院。

生徒達は突然の事で驚いていたようで涙を流して別れた子もいた。

寂しいなぁ…。


「目、覚めたんだね。気分はどう?」

主治医の和月さんがひょこっと顔を覗かせた。


「大丈夫です。」

「昨日大丈夫じゃないことあったでしょうが。」

ぺしっと軽く頭を叩かれてしまった。


実は昨日、呼吸困難で倒れた。幸いにも院内での出来事だったため看護師さんにすぐに対応して貰えたのだが病気の進行をまじまじと感じさせる一件となった。


「もう少し危機感持って欲しいなぁ…。」

苦笑いして言う。

病気のせいか体質のせいか痛みや苦しさに鈍くなってきていた。


「正直に言ってごらん。」

「ごめんなさい、まだ少し…息苦しいです。」

和月さんの圧に言わざる得なかった。


「ん、よく言えました。お水と薬持ってきて貰っていいですか?これ以上酷くなるようなら酸素マスクするね。」


看護師さんに軽く声をかけて和月さんはベット脇の椅子に座った。


「お仕事、大丈夫なんですか?」

「午前は診察入ってないし綾人くんが心配だからもう少しだけここ居る。寝ても大丈夫だからね。」

「…ありがとうございます。」


なんだかすごく安心した。


「…和月さん、何か欲しいものとかありますか?」

少しの沈黙の後和月さんに質問する。

「欲しいもの?」

不思議そうに首を傾げた。


「今まで沢山お世話になったので。全部は返せないけど…少しだけでもお礼、させて欲しいなって。」

「お礼なんていいのに。」


こんな少しじゃ足りないくらいお世話になったから。


「何でもいいの?」

最初は躊躇っていたが少し考えてからそう言った。

「はい、なんでも。」

「…じゃあ、」






「綾人くんが僕に持っていて欲しいもの、頂戴?」




優しい笑顔だった。

「持っておいて欲しいもの…僕が考えて良いんですか?」

「うん、もちろん。」


予想していた答えとは違い驚いた。

僕が和月さんに持っていて欲しいものは何なのだろう。


「じゃあそろそろ行こっかな。ゆっくり休むんだよ、苦しくなったらすぐ呼んでね。」

「はい、行ってらっしゃい。」


和月さんが部屋を出て部屋には独りになった。

先程看護師さんに持ってきてもらった薬が効いているのか呼吸が楽になったように感じる。



「…何がいいかな。」


そんなことを考えながらノートにペンを走らせる。

このノートは病気から三年後に書き始めた。元々病気による記憶障害に対応するためのものだったがいつしか遺書のようなものになっていた。


「あと三ページだ。」

分厚かったノートは長い月日を経て残り少なくなっていた。



あと三ページ分、生きていられるかな。









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【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日

和月さん…僕の主治医








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