第20話 届かない手でできること

「やっぱり美味しいなー、ここのアイス。」

「変わってねーよな。」


幼なじみの藍原と両親のお墓参り後にアイス屋に来た。

学校終わりによく来ていたことを思い出す懐かしい味だった。


「成瀬に一つ報告があるんだけど。」

「何?」


アイスを食べるのを辞めてこちらを向く。

だいぶかしこまった様子だった。




「俺、大学卒業したら…結婚するんだ。」

「…!おめでとう!!」


長年付き合っている彼女さんがいたとは聞いていたが結婚の話は全く聞いていなかったため驚く。


「大学卒業ってことは…二年後か。」

「…うん。」


嬉しさと同時にある思いがよぎる。



僕はそれまで、生きているのだろうか。



「成瀬にも結婚式来て欲しい。絶対。」

「…。」


藍原の真剣な顔に返す言葉が出てこなかった。

二年後。当たり前に来るはずだった日。

僕には多分、来ないだろうから。


「…ありがとう、本当におめでとう。」


そんな言葉で精一杯だった。


「藍原は優しい人だから、安心だな。」

「一生幸せにするよ。」


ふっと顔を赤らめながら笑った。

幸せそうな顔で僕まで嬉しくなる。


「優しすぎて心配になるなぁ。」

「なんで?」

「『幸せ』はじゃないからね。」


藍原は優しいから自分が無理してまで相手を幸せにしようと考える、そんな未来が見えたような気がした。


幸せになるんだよ。」

「…うん。ありがとう。」



一緒に幸せになれる相手がいるって、いいなと思った。

幸せになれる、ということは『今』だけじゃなくて『未来』でも一緒にいられるということ。

僕も未来で生きてたらそんな相手ができたかもしれない。


「じゃあ、帰るか。園まで送る。」

「うん、ありがとう。」


まだ生きていたい、


何度もそう思って諦めて、もう終わりだと思っていたのに。



友達の結婚式の日、

大事な生徒の卒業の日、

初恋の人が帰ってくる日、

大切な人達と生きていく日々、


全部手の届きそうなところにあるのに、届かなくて虚しい。悔しい。


あと少しなのに。

ほんの少し。僕には足りない。



「結婚式、行くね。楽しみにしてるから。」

「!…うん。」


ぱぁっと顔が明るくなった。


足りないけど、ゼロでは無いから。

まだ残ってる分一生懸命生きる。


それが僕の『今』できること。


「…成瀬が幼なじみで良かった。」

「僕の方こそ、ありがとう。」






━━━先にいなくなる僕を、どうか許して。







✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日

藍原 理人…僕の幼なじみ

僕の両親…五年前通り魔に殺される


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