第15話 先に居なくなる僕

「どうして死にたい…?」

まずは理由を聞くことにした。



「…生きてる実感がないから。」

「生きてる実感…。」


「今までいっぱい身体を傷つけて、出てくる血とか…痛覚とか。俺って生きてるんだって、そんなことで感じるのが精一杯だった。」


身体を傷つけるようになったのは小学生の時だったと教えてくれたことがあったのを思い出した。

今までどんな思いで傷つけ続けて来たのだろう。


「…気持ち悪いでしょ。こんなの。…そんなの俺が一番分かってんだよ…。」


悔しそうに嘆いた。


「気持ち悪いなんて思わないよ。平河くんには平河くんなりの考えがあると思うし、僕も色々やって来たからさ。」



「成瀬はなんで…死にたかったの?」



「…僕より先に居なくなって欲しくなかったから。」






「中学の時に一人だけ僕の病気のことを言っていた子が居たんです。」

「…仲良かったんだ。」


僕とはもちろん、みんなと仲が良かった。

かっこよくて優しくて、勉強でも何をするにしても一番だった。



「病気になったことが分かった次の日に学校があって、放課後教室に最後まで残っていたのがその子でした。」


僕よりも悲しそうな顔をして心配してくれた。

何度も何度も大丈夫だと言ってくれた。






「だけどその子は、








僕より先に、死んでしまいました。」


「……なんで…。」





「親御さんから虐待を受けていたようで。お風呂で亡くなったって警察が話していたのを聞きました。」


彼とは家が近所だったためパトカーのサイレンですぐに異変に気づいた。

「アイツが悪いのよ!!!」

何度もそう叫ぶ母親の声は今でも鮮明に覚えている。

「こんな人に殺されちゃったのか、」と立ち尽くしていた。



僕が先に居なくなるはずだったのに。


「彼の件で僕は残された人の苦しさを知りました。

みんなより前に死んでしまえば悲しい思いしなくて済むって勝手に思って、でもそれは僕のエゴでしか無かった。」





平河くんが死んだら、僕は悲しいよ。


「平河くん。」

「…はい。」



「死んでしまって開放されるのは当事者だけです。…残された人は残りの寿命分、君が居なくなった事実を背負って生きなきゃならない。」


「…僕は平河くんのこと、とっても大切に思ってる。死にたいって気持ちも…分かってしまう。

だから『死なないで』とは、言いたくない。」



『死なないで』はただの自己満足に過ぎないと諦めていたから。



「だけど大切だからこそ、平河くんに見て欲しい景色が沢山あるんだ。」


僕にはきっともう見ることが出来ない、たくさんの景色。


「最初に『生きてる意味が分からない』って言ったよね。僕も同じこと何度も思ってた。」


どうせ病気で死ぬ。意味なんてない。



でも、


それでも、


「ただ生きたいって思ったんだ。」




僕の周りには僕が死んだ時、たとえ建前でも涙を流してくれるような優しい人達ばかりいた。

自分の自由時間を削ってまで一緒に話してくれたり、勉強を教えてくれたり。僕の好きな音楽を調べてくれたり、休んだ時にたくさん心配してくれた。

そんな優しい人達ばかりだったから。


「そんな綺麗な人たちがいるこの世界を生きたいと思った。」


「俺にはそんな人たち…。」


「いるよ。平河くんのこと大切だって思う子、この園にも沢山いる。僕だってその一人だ。」



「ただ生きたいなんて綺麗事かもしれないけどさ、」



「1回信じてみてからでも遅くないかなって思う。」


「……そ…っか。」


いつもの笑顔が微かに戻ってきた気がする。



「ありがと…。助けられてばっかだな、ほんと。」

「んーん、僕の方がたくさん助けて貰ったよ。ありがとう。」



照れくさくなって少し笑ってしまった。





「成瀬、」


「何?」




「…信じてみるからさ、



俺より先に居なくなんないでよ。」





…。





「じゃあ、僕が居なくなるまでにたくさんの景色を見て来てください。」


居なくならないことは約束できない。だけど、



「そしたらきっと、僕が居なくても大丈夫。」




僕が居なくなった時の強さをあげるから。






✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日

平河 大和…ピアスを沢山開けた子、自殺願望を持つ

彼…僕の同級生、人気者、中学の時に虐待死した

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