第14話 死にたかった子

だんだん朝起き上がれない日が少しずつ増えてきてしまったとある一日、すっきりした目覚めが訪れた。

最近あまり学校の授業にも行けていなかったから、

「今日は覗いてみよっかな。」

遠足前の子供みたいな感じで準備を始めた。




学校は寮を出てすぐの小学科の隣にある。

この頃寮内でしか生活していなかったため少し息が切れた。

僕の教育係である八神さんに連絡すると快く迎え入れてくれた。

「久しぶりだね、子供たちも待ってたよ。今は別の教室いるからここで待ってよ。」

この優しい笑顔はいつ見ても眩しかった。


「成瀬、?」


教室にはピアスの数が少し増えた平河くんが一人机にふせていた。

2限目の今は教室移動をしているらしく、3限目から授業をとっていた平河くんは残っていたそうだ。


「じゃあ成瀬くんゆっくりしてってね、俺は授業行ってきます!」

「わざわざありがとうございました。行ってらっしゃい。」

八神さんを送り出して教室には平河くんと僕だけが残った。


「その手…。」

平河くんがぼそりとつぶやく。

「最近指先が動かなくなってきちゃって、」

手にはめられたサポーターを擦りながら言った。

ちなみにスラックスで隠れて見えないが足にも動きをスムーズにするためのサポーターが取り付けられていた。

「今日は体調大丈夫なの?」

「うん、久しぶりに会いたかったから。」

じゃあさ、と平河くんが前置きして神妙な顔をうかべた。



「俺の話、聞いてくんない…?」


普段のクールな感じとは違い何か懇願するようなそんなものを感じさせた。

「もちろん。僕でよければ。」

初めて会った時の会話に似てて懐かしいなと思った。



「…俺さ、前にも言ったけどピアスとか開けるのやめらんないの。」

「うん。」

「最近結構…きつくなってきて。」

「…うん。」

「ピアス以外にも…色々やって…さ。」

「…うん。」

気まずそうに腕の袖をめくりリストカットの後を見せた。

思っていた以上の量と痛々しさを目の当たりにし少し驚いた。


「死にたいわけじゃなかった。」

ぶっきらぼうに言って窓枠に手をかける。

そっか、としか言えない自分が情けなく感じた。



「…死にたいわけじゃなかったんだ、ほんとに。」


だけど今は、




「すっごい死にたい…。」



いつだって僕を気にかけてくれて、助けてくれて、友達も多くて、明るかった平河くんの言葉とはにわかに信じ難かった。


「ごめん、成瀬にこんなこと言っちゃ駄目だって…思ってたはずなんだけど…。成瀬しか言える人いなくて…。」

彼の目からは涙がこぼれていた。

本当はずっと誰かに言いたかったのかもしれない。

「ありがと、伝えてくれて。」

そっと平河くんの横へ行き背中をさする。


誰にも言えなかったことを僕に言ってくれて、この子だけは何とか救わなければと固く決意した。






✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日

八神 圭…国語教員、僕の教育係

平河 大和…ピアスを沢山開けた子、自殺願望を持つ

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