第13話 気づいて貰えない僕

「それで、俺がいると若宮に迷惑かけると思って…だから出て行きたい。」


廊下で待っていた若宮くんを部屋に呼び戻し佐倉くんが自分の思いを一通り伝え終えた。



「上手く伝えられなくてごめん…。でも、これが俺の今の気持ち。」


声を震わせながら話す姿に若宮くんもどこか苦しげな表情をした。



「俺の事思ってくれるのはありがたいけど、佐倉が出ていくのは違うだろ。」

「だけどそのせいで若宮が…、」

「俺のことはどうでもいいんだよ。」

「どうでもいいわけないでしょ!」


軽い言い争いになった。



「…今は大丈夫でもこれから先も一緒にいたらもっと苦しい思いするんだよ?同性愛者ってだけで…親にため息つかれたり、友達に軽蔑されたり…するんだよ。…そんな思い若宮にはさせたくない…。」



涙を流す佐倉くんを見て若宮くんも涙を流していた。

後から聞いた話だが佐倉くんは幼い頃から同性愛者の自覚があり普通とは少し外れた扱いを受けてきたらしい。

高校生になるまで気づいてこなかった若宮くんにそんな経験はなかった。


「確かにそうだね…。」

そう言わざるを得なかった。





「でもね、」



「これから先にあるのは苦しいことだけじゃないよ。」





2人でいればどんなことだって乗り越えられる、そんなのはドラマの中だけの話かもしれない。

でもそんなシナリオを夢見てしまうほど希望を抱いているんだ。二人でいる未来に。




「俺は辛い時だけじゃなくて、幸せな時間も佐倉と過ごしたい。」

「…若宮。」


「俺のために色々考えてくれてたなんて思わなかった。ありがとな。だけど俺は佐倉がどうしたいか聞きたい。」

「俺、は…。」


こんなに愛し合っている2人の答えはもう明白だった。


「一緒に居たい、この先もずっと。」

「…うん。」


安心したようにお互い笑い合った。

この二人を見ていると僕まで暖かい気持ちになる。



「先生、色々ありがとうございました。…あの、」

「…何?」


2人で仲良く手を繋いで出ていこうとしていた時佐倉くんが立ち止まって言った。





「学校、いつ戻って来ますか…?」


生徒達には療養のためにしばらく休むとしか伝えていない。


「授業は出られないけどしばらくは相談室とか寮に居るから、用事があったらいつでもおいで。」

「…はい、ありがとうございます。」


おそらくこの先も、授業に戻ることは無いだろう。

和月さん言わくそろそろ身体も動かなくなってくるらしいからな…。


手を繋いで楽しそうに話す2人の後ろ姿を見ながらそんなことを考えていた。



人が大切な誰かと一緒にいたいと思うのは相手の気持ちに気づくためなのかもしれない。


楽しい時、楽しいねと笑って。

悲しい時、大丈夫と手を握って。

苦しい時、ただそばに居てくれる。








「…僕には無縁だな、」


独りになった教室でふっと笑った。





✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日

若宮 冬弥…虐められている

佐倉 優太…同性愛者、出ていこうとしている

和月さん…僕の主治医





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る