第11話 僕を助け続けてくれた人
「成瀬…もう大丈夫なの?」
放課後、授業終わりの平河くんと出会った。
目が覚めてから教室には戻っていなかったため心配をかけてしまったらしい。
「もう大丈夫。平河くんはもう帰りですか?」
「うん。今日は4限までしか取ってなかったから。成瀬は?」
「大事をとって早退させてもらいました。病院行ってきます。」
病院、という言葉が出た途端顔を顰めた。
「…病気のせいなの?倒れたのって。」
「ただの疲れだと思います。ごめんなさい、心配かけて。」
別に謝んなくても、と素っ気なく返されたので
「ありがとう。」
と、その優しさに感謝を伝えた。
平河くんと別れて職員用の裏門から出る。
「あ、綾人くんやっと来たー!」
「…和月さん?何ででここに。」
そこには主治医である和月さんがいた。車の窓から顔を出している。
「近くに診察訪問行ってて。病院に電話してくれたんでしょ?ちょうど良かったから迎えに来ちゃった。」
今日は院内の診察の当番ではなかったらしいのだがこれから病院に戻るとの事だったため乗せてもらうことにした。
「すみませんわざわざ。」
「今日の診察は夕方までだからそっから軽く検査してお話しよ。」
発症してから10年弱の付き合いになるため年上の友人のような関係となっていた。
「そういえば四葉園…だっけ、どう?」
「まだなれないことも沢山ありますけど楽しいです。みんな優しくて素敵な子なので。」
四葉園は色んな子がそれぞれ違う色で輝いているようなそんな場所だと思った。
最後に和月さんと会ったのは一か月前にご飯に連れて行って貰った時。四葉園の話は軽くしかしていなかった。
「
和月さんがそう言って5分もしないうちに病院に着いた。真っ白な外壁は昔から変わらないままだ。
「あ、お兄ちゃんひさしぶり!」
病院の廊下である女の子に声をかけられた。この子は和月さんの患者さんで半年前から白血病の治療のため入退院を繰り返している。
「澪ちゃん久しぶり。可愛い帽子だね。」
「学校の友達がくれたの!」
嬉しそうにピンク色の帽子を触ってみせた。前に会った時次の検査の結果が良かったら学校に行くの、と楽しそうに話していたのを思い出した。
「澪ちゃんそろそろ病室戻ろっか。」
付き添いの看護師さんに声をかけられ病室に戻っていく。
姿が見えなくなるまで僕は手を振った。
「変わんないよね、見送る時ずっと手振るの。」
検査をしながら和月さんが言った。
「これが最期になるかもしれないんで。」
「…そっか。」
重くならないようにサラッと言って済ませた。
この先もう二度と会うことなく死んでしまってもきっと後悔するけど、何もしないで会えなくなるよりはまだ少しだけマシだと思った。
それから、検査はものの15分ほどで終わってしまった。
「今日倒れたのは貧血かな。ずっと立ちっぱなしだったんじゃない?」
言われてみれば今日は朝から授業に事務作業の手伝いなど座る暇がないくらい忙しかったかもしれない。
「病気の影響もあって人より身体が疲れやすいんだからちゃんと休んでよ?心は大丈夫でも身体は大丈夫じゃないんだから。」
呆れたように言われてしまった。
「釘を刺すようだけどさ、」
「無理しないでね。…病気の進み少しだけ早くなってる。」
まっすぐ目を見てゆっくりと言った。
進んでいることには変わりない。なくなることは無い。そう思えば不思議と悲しくはならなかった。
「どのくらい生きられますか。」
「いいの?」
今まであえて聞いてこなかったこと。
死ぬことには変わりないから、と諦めていた。
だけど、
「もう少しだけ、ここに居たいので。」
僕が生きてきたこの世界の美しさをもっと知りたい、そう思った。
「ながくて1年…かな。この先体を動かすのも厳しくなってくると思う。」
「そうですか。」
ながくて1年。
「ごめんね、助けられなくて。」
「ここまで生きられたのも和月さんのおかげですし、感謝しかないですよ。本当にありがとうございます。」
僕は1年以内に死ぬ。
「じゃあ、またね。」
「はい、ありがとうございました。」
いつもならまた、というところを今日はやめた。最期なのにまた、というのは後味が悪いと思ったから。
その代わり
「さよなら、和月さん。」
丁寧な別れの挨拶をした。
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【人物まとめ】
成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日、向日葵の目
平河くん…ピアスを開けた子
和月さん…僕の主治医
澪ちゃん…和月の患者、白血病
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