第10話 僕を好きでいてくれる子

「先生のこと、好きです。」




そんなふうに思っていたなんて知らなかった。

「…ありがとう。だけど、」

「分かってます。答えはいらない告白なので、受け取ってください。」


「…うん、ありがとう。」


嬉しかった。

こんな僕でもまだ好きでいてくれる子がいるなんて。






「やっぱり綺麗です。」

「え?」

僕の顔をじっと見て羽乃さんが言った。


「いつも教室に入るたびに怖くなるんです。顔が見えないから知らない人なんじゃないかって。」

そんな訳ないんですけどね、と苦笑いする。

髪や服装、アクセサリーなどで判断はできるもの全員を見分けられる訳では無いらしい。

僕もたびたびクラスメイトに名前を聞く羽野さんの姿を見ることがあった。



「でも先生だけはどこにいても分かりました。」

「なんで?」

僕はピアスをつけている訳でも髪を染めている訳でもないんだが、一体何が目印になっているのだろうか、



「目の周りかな…きらきらしてるんです、先生の顔。オレンジっぽい光ですごい綺麗です。」


「…だからかな。」



『向日葵の目』は光が当たった時、眼球に向日葵が現れる目のこと。病気でもなんでもなく、先天性のものだ。


「向日葵の光なんだ…。先生らしくて素敵ですね。」



優しく微笑む姿が素敵だと思った。






「綾人!あれ、生徒さんと一緒にいたのか。」


養護室に慌ただしく入ってきたのはお姉さん母の姉だった。



「名前…。誰?」


「僕の母のお姉さんで小学科の職員をしてるんです。」

なるほど、と納得したように言った。


「じゃあ私教室戻ります。お大事にして下さいね。」

「ありがとうございます。」


羽乃さんが出て行った。






「ごめんなさい、お姉さん。ここまで来てもらって。」

「心配したよ…ほんと。」


今にも泣きそうな表情で言った。

病気が分かってから忙しい両親に変わり、お姉さんにはよくお世話になっていた。

学校で倒れた時に1番に来てくれたのも、病院の検診が終わったあとのご褒美でご飯に連れて行ってくれたのもお姉さんだった。



「次の検診…いつ?」

「1週間後です。」


定期検診は2ヶ月に1度。

検査と軽いカウンセリングがある。


「心配だからこの後…は授業か。明日なら私も行けるけど…。」

「大丈夫です。今日の放課後行きます。和月さんいるみたいなんで。」


和月さんは僕の主治医。


「そっか…。気をつけてね。」



いつも心配ばかりかけて申し訳ない。

「はい。」






僕が居なくなったら…、なんてね。







✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日、向日葵の目

羽乃 美織…人の顔が認識できない

お姉さん…僕の母の姉、小学科の職員

和月さん…僕の主治医


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