第6話 【後編】彼女が伝えたかったこと


彼女との連絡の中で一際盛り上がったのはアニメの話題だった。僕も彼女も切ない恋物語が好きだった。

恋がしたかったとかではなく、ただ単に興味があった。



『人を好きになるって簡単なことだけど、それを一人に決めなきゃいけないから恋って難しいのかもね。』



アニメを見ていて彼女が書いたものだ。僕は静かに頷きながら、一人に決めなきゃいけないのなら恋なんて必要ないのかもしれないと勝手に思っていた。



『自分よりも幸せになって欲しいと思う人に恋したいな。』



まだ幼かった僕らの少し大人びた会話だった。でも今なら少しだけわかる気がする。


――『私より幸せになって』か。


「あ、私もう行かなきゃ。またお話して下さいね!」

甲斐崎さんは足早に教室を出た。見るともう授業始めのチャイムがなる時刻だった。


僕はおもむろに携帯を取り出し四年前から既読のつかない彼女の連絡を開く。最後に入れていたメッセージを取り消し新たに送った。




『ありがとう。僕より幸せになってね。』


僕が死ぬ前に、届きますように。





✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日

甲斐崎 凪…耳が聞こえない子

彼女…中学時代の同級生、耳が聞こえない、僕が好きだった人



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