第5話 耳の聞こえない子
翌朝、平河くんの姿は教室に無かった。
「平河なら今日は本校の方に行ってるよ、授業日数危ないらしくて。」
「そーなんですね。」
四葉園に通う生徒は寮生と他校との掛け持ち生に分かれているらしい。ちなみに僕はお姉さんの権力行使により手伝いの期間中は寮生活を送ることになったのだが。
「じゃあ僕は教室に行ってきます!」
「はい、頑張って下さい。」
八神さんはこの後授業のため僕は自習室で昨日残していた事務作業に取り掛かることにした。授業始まりのチャイムも同時に鳴った。
「あの、これ落としましたよ。」
声をかけられたので振り返ると緩く髪が巻かれた女子生徒が僕のペンを持ってこちらを見ていた。どうやら自習中の生徒のようだ。
「ありがとうございます。君、名前は?」
「…。」
見たことがない生徒だったため聞いてみたのだが返事は返ってこずゴソゴソと鞄に手を入れ、何か探しているようだった。
「もう一回言って。」
「ペンありがとうございました。名前を教えて欲しいんだけど。」
素直にもう一度言ってみた。
「…
そう言いながらスマホに表示された文字起こしアプリを見せてくれた。耳が聞こえてないというが話し口調からは全くそれを感じさせない。
「もう授業始まってるけど大丈夫ですか?」
「…今日二限目からだから。」
スマホの文字起こしを確認した後サラッと答えた。生徒によって授業数が異なるためこのようなことも珍しくない。
「先生は休んでなくて良いんですか?」
「病気のことなら大丈夫。今日は
「…ふーん。」
文字起こしを見た後僕の顔を不思議そうにまじまじと見つめていた。
「何?」
「…本当に病気なのってくらい普通だなって。」
病気の症状はたまにしか出てこない。軽度なものなら頭痛や痺れ、重度なものになると意識障害や記憶喪失などが起こる。この園に来る話を最初にされた時もその後の記憶喪失のせいで一週間分ほど記憶が飛んでしまった。
「耳の事、聞いても良いですか?」
「…いいよ。」
「いつから聞こえないんですか?」
「…中学生の頃。車の衝突事故に巻き込まれたんです。それまで普通に話してたのでそのまま続けてますけど一応手話とかも覚えました。」
慣れた手つきで手話をする。見たところ『一緒に話すの楽しい』という意味のようだった。
「…僕も楽しいです、話すの。」
彼女と同じように手話をしてみせた。
「…先生手話できるんですね。なんか恥ずかし。」
「中学の時の同級生に耳の聞こえない子がいたんです。その子によく教えて貰ってました。」
彼女は今元気だろうか、心の奥で静かに思った。
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【人物まとめ】
成瀬 綾人…僕、病気、余命ゼロ日
甲斐崎 凪…耳が聞こえない子
彼女…中学時代の同級生、耳が聞こえない
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