第3話 ピアスを沢山開けた子

一日目の業務は割とすぐ終わった。三限分の授業の間事務仕事に駆り出されたため朝のあの時間から生徒と話すことはできなかった。また明日から色んな子と仲良くなれれば良いが…。

「…先生!」

教材を運んでいる最中後ろから声をかけられて振り返ると今朝の不良っぽい子がいた。他の生徒はぞろぞろと帰っているようだが何の用だろうか。

「今朝のこと…ごめん。」

頭を深く下げられた。

「今朝のことって?」

「…病気のこととかみんなの前だったのに、本当ごめんなさい…。」

第一印象に反したとても素直な子だった。病気のことをみんなの前で公言させてしまったことを気にしているようだが僕には慣れっこなことなわけで謝られるには少しくすぐったい。

「隠してた訳じゃなかったから大丈夫。わざわざありがとうございます。」

「…そっか。」

僕の言葉に安堵の表情を浮かべる。だいぶ心配して貰っていたようで申し訳ない。

「平河くん…だっけ、もう帰るんですか?」

平河くんの手元に荷物がないことを不思議に思い聞いてみた。

「昼バイトだからここで時間潰すつもり。」

「じゃあ少しお話しませんか?」

「…誰と、」

「平河くんと僕。」

「……いーよ。」

驚きを感じながらも少しだけ心を開いてくれたような気がした。



「オレンジジュースとコーヒーどっちが良い?」

「オレンジ。」

とある相談室を借りて平河くんとお話することになった。部屋に取り付けられていドリンクセットからオレンジジュースとコーヒーを取り出しコップにコトコトと注いだ。


平河くんの下の名前は大和と言うようで少しずつではあったが誕生日からハマってるアニメなどの話で盛り上がった。



「平河くんはピアスを開けるのが好きなんですか?」

この質問までは。

不意に平河くんが黙り込んでしまった。調子に乗って色々聞きすぎただろうか。

「…俺がここに通ってるの、が原因だから。」

耳についた沢山のピアスを触りながら言った。

「先生、って知ってる?」

半笑いの辛そうな笑みだった。自傷行為とは自らの身体を自分の手で傷付けてしまうというもの。

「俺やめらんねーの、自傷行為。この大量のピアスもそれ。クラスの友達あいつらには言ってないけど。」

「そーだったんですね、話してくれてありがとう。」

手の方を注意して見るとリストバンドのようなものが付けてあった。もしかすると、と思ったがこれ以上詮索するのは良くないと思い口をつぐむ。

「俺の話終わり、次先生の番。」

急に僕の話題に変換させられてしまった。平河くんに沢山質問をしておいて自分が答えないのは筋違いだと思い

「何でも聞いて。」

と言った。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕、病気

平河 大和…ピアスを沢山開けた子、自傷行為がやめられない

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