第4話 悪魔の心変わりに戸惑う従者たち


ちょこっと御者視点。


御者のカイルは、お嬢様を学園寮へ送り届けたあと、しばらく仮眠するため、学園内にある御者専用の自室へ向かった。


その途中、くいっとそでを引っ張られる。

振り返ると、専属メイドのアイナが立っていた。


「ちょっと良いかしらカイル」

「なんだい?」


「あなたお嬢様を連れて、侯爵領へ戻るんじゃなかったの?」

「そのはずだったんだがな、お嬢様は移動制限がかかっていた。

帝都から出られなかった」


「いどうせいげん?」

「詳しくは語られなかったが、お嬢様は何か魔法にかけられているらしい。

だがそれは、危険なものではないとおっしゃっていた」


「ちょっとそれ、どういうことなの?」

「私も良く分からないさ。

アイナの方からうかがってみてもらえないか?

君の方がずっと、寄り添っているんんだから」


「簡単に言わないでよ、分かるでしょ?

あの方相手は大変なんだから」


「う~ん……」

「どうしたの?」


「それなんだが……」


御者のカイルは、昨晩の出来事を全て話した。

帝都から出れなかったこと。

お嬢様が突然泣き出したこと。


そのあといきなり、独り語りが始まったこと。

そして酒場で朝まで飲み明かしたこと。


「酒場で朝までっ。だから朝帰りなの!?

あなたがいたのに、何てはしたない事をっ。

どうして直ぐ、引き戻さなかったのよ!」


「私だって何度も言ったさ。

学園の寮に戻ろうってな。

だけどその度に、ぐずって泣き出すんだよっ。

しまいには床に寝転んで、嫌だ帰りたくないって暴れるんだ」


「まさかあの方が、そんな醜態を人前でさらすなんてっ。

信じられないわ!」


「本当のことだっ、噓だと思うなら昨夜の酒場に確認すればいい。

私も何度も目を疑ったよっ」


そこでカイルは腕を組み、硬い表情をしてうなる。


「私はどうしても、アレが演技だとは思えなかった。

本気で泣いて、本気で寂しがっておられた」


「本当にあの方の性格が、頭を打った衝撃で変わったというの!?」


アイナは、到底信じられぬと言った様子で首を振る。

しかしアイナ自身も、見ていなかったか?

シーツにくるまり、泣いていた姿を?


「本当に? 噓でしょ?」


アイナはやっぱり信じられぬと言った顔で、ぎこちなく首を振った。




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