第2話 ユリエラ、ここではない何処かへ逃げる

わたしはアイナを見送って、またベッドに寝転がる。

シーツを引っ張ってくるまった。


じわりとくる。

なにがくるかっていうと。


罪悪感が!

悪役令嬢のユリエラとしては、当たり前の日々だったけれど、

霧島ゆりとして「メイド虐待の日々」を振り返ると――


「あああああああ……」


なんてゴミくずなのわたしっ。

人でなしなんて言葉が、生ぬるすぎるっ。


今まで発狂させたメイドたちの顔が、走馬灯のように浮かんできた。

わたしは良心の呵責かしゃくに耐えられずに、シーツの中でもだえ続けた。


「くううううっ、どうすれば良いんだろ!?

あたしこれから、どうすれば良いんだろ!?」


前世の大学生のわたしは、いい子だったんだから。

ちょっとゴシック入って、こじらせていたけれど。


謝ったら許してもらえるかな?

違うそんなレベルじゃないっ。


メイド虐の日々を思い出すだけで、寒気がする。

それはもう、とんでもなく卑猥ひわいな日々だったと自分で思う。

そう卑猥だったりするっ。


自分で言うのもあれだけど、なんで平気で人を壊すような事ができたのって聞きたい。

その答えはたぶんあれだ。

そういう風に作られたゲームキャラだから。


そうであって欲しい。

そう思わなきゃ、ちょっと自分のゴミくず加減で立ち直れないから。

ユリエラは主人公キャラを引き立てるために、徹底的に悪役に特化したキャラ。

将来、国を裏切って魔王に寝返るようなキャラなんだ。


そしてメイド虐だけじゃなくて、学園での振る舞いとかも思い出したら……


「くっ、苦しいっ。

ダイレクトに胸が苦しいっ、胃が痛いっ」


そうやって苦しむと同時に、18年間ユリエラとして生きてきた「私」が、冷静にわたしを見つめてる。

なんか上の方から。

上から目線でわたしにささやく。


あらあら、そうやって良心の呵責に苦しむのはよろしいですけど、これからどうなさるの?

この世界がゲームの中だと分かった今、あなたはこのままだと破滅に向かうのよ。

どうなさるの?


「どうなさるのって、どうすれば!?」


ユリエラが魔王に寝返って、ユリエラハッピーエンドルートってあるのかしら?


「そんなのあるわけないっ、悪役が最後に幸せになりましたなんて、ゲームがあるわけないっ」


なら、どうなさるの? このまま滅ぶの?


「それは、いやだー!」

「大丈夫ですか、お嬢様!?」


いつの間にかアイナが、学園専属の「魔法医」を連れてきていた。

被っていたシーツをはがされる。


わたし多分、涙とか鼻水とかでぐしょぐしょになってたと思う。

こんな時、心を通わせていたメイドだったら、わたしを抱きしめたりして、慰めてくれるんだろうけど。

アイナはただドン引きして、立ちすくんでいただけだった。


魔法医はとりあえず治癒魔法かけて、沢山の各種ポーションを置いて帰っていった。

アイナは「何かあればお呼び下さい」と言って、ささっと隣室に引き下がる。

閉じられた隣室のドアを見つめて、独りベッドの上で気が抜けるわたし。


さびしい~、あったかい感じがなくて。

なんか、すっごくさびしい。

でもこれもみんな、自分のせい。


「霧島ゆり」だけだったら、へこみ過ぎて立ち直れないけれど、わたしの中の「ユリエラ」が、わたしの脳みそリソースを使って考え始めてる。

どうすれば破滅しないかを。


すっごく頼もしいけど、何だか複雑な気分。

どっちもわたしなんだけど、悪役令嬢のせいなのに悪役令嬢の部分に頼るなんて、それで良いのかな?


良くない!

けれどそこに、すがるしかない。

わたしはもう一回シーツにくるまって、うんうん唸って、がばりと起きた。


「そうだ、ここでない何処かへ逃げよう!」



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