悪役令嬢ですが王妃にならなくてモブキャラ溺愛してた方が幸せじゃない?

うちはとはつん

第1話 カルマ値がマイナス過ぎてつらいですわ

わたしは周りの子たちを、見下してた。

さげすみの気持ちがとっても強くって、いつもつんとあごを上げてる。


そんなんだから足元をよく見なくて、授業の終わったあと、階段の一歩目を踏み外しちゃう。


「あっ」と思ったときはもう遅かった。

上下が逆さまになって、思い切りあごを階段にぶつけてた。

口いっぱいに、血の味が広がって気持ち悪い。


「あああっ」


転がりは止まらない。

まだまだ階段は続いている。

わたしの通う学園の、ホールの階段は結構長い。


勢いがついて体が跳ねた。

一回転してガツン。

また跳ねて、一回転してガツツンッ。


わたし、死ぬんだと思った。

むっちゃくちゃ痛い。


なんだか妙に、周りがゆっくりと見える気がする。

人生最期のスローモーション!?

最期ってこんなものなの!?


転がり落ちながら、走馬灯が見えた。

それは強烈なデジャヴだった。


わたしこの痛み知ってる!

真っ赤に染まった口で叫んだ瞬間、わたしの中にフラッシュバックが広がる。


ここではない何処か。

バイト帰りの11時。

駅の階段。


わたしはそこで手に持つ乙女ゲームに夢中になって、階段の一歩目を踏み外してる。

おんなじことしてる。

あっという間にひっくり返って、階段を転がり落ちてた。


なにこれ同じ!?

なんで同じなの!?

そう思ってびっくりしたのが最後で、わたしの意識はふつりと途切れた――



どれだけ時間が経ったんだろう。

ふっと目が覚めて、天井が見えた。

そこは駅のホームの天上じゃない。

学園のホールの天上でもない。


そこは見慣れた、わたしの部屋の天井だった。

学園にある、寮の部屋。


「あ……れ?」


ベッドに寝てるみたい。

わたしはゆっくりと体を起こす。

あれだけ体を強く打ったのに、まるで痛みがなかった。


そのことは別に不思議じゃない。

誰かが転げ落ちたわたしに、治癒魔法をかけてくれたんだと思う。


この世界には「魔法」が存在していて、誰もそんな事を不思議がったりしない。

わたしはそれより、もっと別のことを不思議がっていた。

そっとベッドから立ち上がる。


「えっとあの……ほんとに?」


数メートル先の壁際におっきな鏡があって、わたしはその前に立つ。

ああ……ちょっと怖くて前が見れない。


鏡にうつる足元をにらんじゃう。

それでも少しずつ視線を上げて、自分の顔を見た。


「うっわ……」


そこに映ってんのは、わたしの顔じゃなかった。

あのとき駅でやってた、ゲームキャラの顔。


ゆるくウェーブのかかった長い銀髪。

深い紫色の瞳。

ゲームキャラだけに、すっごい美人だった。

名前はユリエラ。

とある侯爵家こうしゃくの令嬢で、帝都にある魔法学園に通ってる3年生だ。


わたしは自分?の顔を、べたべたと触りまくった。

きれいな銀髪をくっしゃくしゃにかき回して、しゃがみ込んだ。


「どうなってんのこれっ。

まさか転生!? 

わたし、駅で転んで死んだの?

それで転生?

ゲームとか本とかで良く見る、異世界転生ってやつ?

本当にそんな事ってあるの!?」


良く分からないけれど「学園の階段で転んだ痛み」と、前世の「駅で転んだ痛み」が重なって、なんだかんだあった気がする。

あのとき前世の記憶が、しゅばんと頭の中に広がったんだもの。


「わたし」と、鏡の中に映っている「私」は別人だ。

けれど不思議なのが、顔が違うと思っているのに、同時に違ってないと思う所。


わたしはこのキャラの顔で、もう18年も生きていた。

「ユリエラ」イコールわたし。

そう思ったんだけど違う可能性もあって、わたしは頭をかかえた。


「ちょっと待って……

ほんとにわたし、18年も生きてた?

これってわたしの記憶じゃなくて、キャラの記憶かも?

それを自分の記憶だと、思っているだけなんじゃ?

わたしっていつから、このキャラになってんの!?」


ついさっき駅の階段を、踏み外したばかりな気もする。

だってそっちの記憶も、しっかりあるんだもの。


本当のわたしは黒髪で、ちょっとだけ茶色い瞳が自慢だった。

名前は、霧島きりしまゆり。

大学の帰りにバイトして、駅で転ぶ19歳。


「ん? あのとき19歳ってことは、こっちで18年生きてきたから、えっと足して37歳……

あ、絶対違うっ!

わたしたった今、ゲームの中に転生してきたんだっ!

たった今だ! きっとそう!」


そこじゃない。

わたしが悩む所はそこじゃない!

と思いつつ、37って数字にショックを受けた。


ちょっと立ち上がれないダメージを受けてうんうんうなってたら、コンコンコンとノックが聞こえて、ガチャリと扉の開く音がする。

入ってきたのは、侯爵家から連れて来た専属メイドの「アイナ」。


アイナはわたしが起きている事に、びっくりしたみたい。

駆け寄って、わたしのそばにしゃがみ込む。

わたしの肩に触れようとした手が躊躇ためらってる。


「大丈夫ですかお嬢様。

すぐ医者を、連れて参ります」


「うん、ありがとう」

「えっ!?」


アイナは大きな声を上げて、固まった。


「どうしたのアイナ?」

「いえ、何でもありません行って参ります」


「そう、お願いね」

「えっ!?」


また固まった。

何やってんのと思ったけど、あー何となく分かる。

わたしは何となく察した。


わたしがぞんざいに、手をひらひらさせて「あっち行けって」素振りを見せると、逆にほっとした顔をして動き出す。

わたしはきびきびと動き始めたアイナを見て、ちょっと寂しくなった。


そりゃないよー


そりゃないよと思うけれど、しかたないと思うわたしもいる。

わたしはこれまで、専属メイドとかをゴミみたいに扱って、何人も発狂させてきたから。


アイナは確か、専属メイドの18人目。

そんなわたしがいきなり「ありがとう」とか「お願いね」とか言ったら、そりゃ警戒するよねえ。

また何か嫌がらせを企んでるとか、思ったんだろうなあ。


なんでわたしが、そんなメイドいじめをするかって?

だってわたしは、乙女ゲーム「ダークバラード」の悪役令嬢キャラなんだもの。

のちのち魔王に寝返って、国を滅ぼす悪役令嬢+傾国キャラ。


ユリエラ・ソルナイン・S・ミラージュなんだもの。




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