第16話 納屋

 納屋が完成した。高床式の納屋だ。鼠返しもつけて、食い物が荒らされない様に対策もしっかりと出来ている。結局この方式が一番良いわけだ。

 当然マリンの付与魔法がここでも大活躍していた。軽量化の付与のおかげで木材の運搬などにかかる労力が著しく下がる。おかげでかなり、完成までの速度も上がるし、丁寧に建てるだけの余力すらあった。

 俺たちの家には微かな隙間があるのでそこから風が入ってくることは多いが、今回の納屋はその隙間すらも埋めることが出来ている。納得の出来である。

 俺たちは今ある食材を全て納屋に運び入れて、家自体もスッキリとした。生活空間がごちゃごちゃしているのはどうも気になっていたからな。これで広々と家を使える。寝るのも少し窮屈だったのだから、かなりの改善である。

 何度かガッシュが外で寝ることを提案してきたが、そのせいでガッシュが病気になったとしたら、その方が開拓地の損失であるので、そう伝えれば彼は理知的な人間であるので、素直に家で寝てくれていた。感情的な否定では奴隷だからと受け入れずに外で寝ていたことだろう。一次的にはそういうことはあっても、態々それを強制させることは絶対にしない。


「どうよどうよ、あたしって凄いでしょ? ほんとあいつらってバカよね。このあたしを捨てるなんてさ」

「むしろ、そのおかげでこうしてかなりの戦力がこの開拓地に来てくれたことを考えれば、クビにしてくれてありがとうという感じかもな。それに、マリンは鍛治師の求める付与は出来ないんだろう? そんな場所でバカにされて生きていく必要はないよな。自分に合った所にいればさ」

「フーマはほんといいこと言うねえ。あたしもそう思ってるわよほんとに。もう大好き。結婚してあげてもいいわよ」


 と、夕食時にベタベタとスキンシップを取ってくるマリン。よほど上機嫌ではあるが、この場所に酒なんてないので、これは素面であった。喜びの興奮でめちゃくちゃを言っているだけということであろうか。

 男であるし、ここでは性欲を発散できる様な環境もあるわけでもなし。俺の意識は触れ合うマリンの柔らかさに集中してしまうというのも仕方なかった。もし、マリンと結婚することになれば、この身体が俺のものになるのかと、よくない妄想ばかりが膨らんでいくのである。


「結婚なんてまだ早いですよ。子供が出来たって、育てられる余裕がないんですから。禁止ですよ禁止」


 すると、アリスが俺たちの間に入ってきて、無理やりに引き離してくる。俺を見る目つきが、なんというか人を見る目であったか疑問に思った。彼女の中で俺の人権が一瞬なくなっていた様な、そんな気がしてならなかった。もしかしたら、それほどひどい顔をしていたかもしれない。実際に身体はしっかりと反応しているので、それを悟られたかもしれない。

 だが、俺が彼女に対して弁明でもしようと考えているところに、マリンはニヤリと笑みを浮かべ、口撃を開始するのであった。


「えー、アリスもフーマと結婚したいの? まあ、いい男だもんね。開拓地も発展していけばいずれ村長も確実だろうし? もしもっと発展していけば町長? そんな男を放っておかないかあ」

「ち、違いますよ! ただ、子供を育てるにはそれなりの覚悟ってものが必要で! こんな何もないところで妊娠出産をするなんてあなたの危険すらありますよ! わたしはそれを言っているんです!」

「はいはいわかっているわよ。一番は譲ってあげるから、慌てないでいいわよ」


 女性陣がやかましくなりつつ、俺は顔にニヤケが止まらなくなった。二人の美人を妻に出来るとしたら、俺はなんて幸せ者だろうか。今日は興奮して眠れないかもしれない。そんなことを思ってしまった。少なくともこの感情を鎮めなくてはならない。

 俺はガッシュに伝えて、少し森の奥へと入っていった。

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