第15話 皆での畑仕事
次の日、俺たちは畑仕事に精を出していた。アリスも畝を作ったり、種を植えたりという作業を魔法で行えるわけではないので、ここはシンプルに人海戦術が必要になる。植物魔法は農耕魔法というわけではないのだというわけだ。
前回よりも広い土地を耕すが、前回よりも人の数は多い。こうしてみんなで鍬を振るっている光景を俺は目に焼き付けるように見つめていた。これからも続いていく日常であり、ありふれたものになる第一歩だ。
「まさか、魔法使いになって畑仕事なんてするとは思わなかったわね。人生何があるかわかったもんじゃないわ」
「そうですね。わたしなんて、何処ぞでのたれ死んでいることすら覚悟していたのに、こうして不便ではありますけど、楽しい生活が出来て幸せです」
女性陣二人の会話を盗み聞きするつもりはなかったが、聞こえてきてしまって、この場所にアリスは愛着を持ってくれて本当に嬉しい。だが、まだまだこれで満足なんてしないし、させるつもりもない。もっと豊かになってもっと幸せにしてやりたいと思える。そう思えると、鍬を振る腕に力が入るというものであった。
彼女たちは魔法使いではあるが、世間のイメージにあるような魔法使いの力の象徴としての要素はない。どちらも日常の生活をより豊かにするような、そんな柔らかな力であった。そのために、危険からは俺が守る必要があるのだと意識する。
この辺りは平和なので、戦ったことのある一番大きな動物が鹿であった。野盗なんかに立ち向かえるように鍛えるべきだろうか。まあ、野盗もこの辺りの治安が良いために現れたことはないそうだが。領主様がかなりのやり手であるという話だ。
「よしよし、これで終わりだな。面積を広げたが、人数も増えたおかげで日を跨がなくて済んだな」
「あとは促成の魔法をかけていって、終わりですね」
農業初心者四人で一日かけてなんとか、種植えまで終わらせることが出来た。たったそれだけのことではあるが、俺たちは汗でぐっしょりと濡れていた。やはり慣れていないことは大変疲れる。
魔法をかけ終わって、今日の作業が完全終了すると、先に彼女たちに水浴びに行かせて、俺たちは夕食の準備をする。今日は森の中に取りに行くことはできなかったので、あるものを使っていくしかない。
そうして、二人が水浴びから帰ってきたのと交代で俺たち男も水浴びに行く。疲れた身体を揉むようにしながら汚れを落として、ある程度綺麗になればさっさと帰る。早く帰らなければ夕食が冷めてしまう。彼女たちも俺たちの帰りを食べずに待っているだろう。
「あ、帰ってきましたね」
「さ、早く食べましょう。今日は集めていないから、薪もそんなにたくさん使えるもんじゃないし、のんびりできないわよ」
急かされるように俺たちは火の周りを囲うと、俺の視界に気になるものが入ってきた。俺の反応を見るようにマリンがニヤニヤと笑みを浮かべていることから犯人は簡単に見つかる。
「なんか、なんかこの薪光ってないか?」
「そりゃ、長持ちさせるように薪に高効率の付与くらいするわよ。火の番って、あたしあんまり得意じゃないから、普段からこうしてるのよ。これなら目を離しても大丈夫でしょ」
最後にとんでもないことを言ったような気がしたが、驚くのに疲れ始めつつあり、それ以上に腹が減っているので、そんなものは置いておき、みんなで一斉に夕食をとるのであった。
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