第14話 これからの予定

 元の硬さに戻った切り株たちは、それでも元の形に復元するというわけではないみたいで、水揚げされたタコやイカのような姿のまま、木の硬さを取り戻していた。まあ、タコとかイカとか魚介類は干物でしか見たことはないのだけれども。

 一日に五つもの切り株を引っこ抜くことが出来るなんて、かなりの上出来であり、このおかげで、明日には耕し始めることが出来ることだろう。とりあえず、アリスが指定した範囲までは広げるつもりだ。

 それに、毎日同じだけの土地を使えるように整えられるのであれば、すぐにでもいろんな建物を建てて、人を呼ぶことも難しい話ではないかもしれない。


「ご主人様、急いで人を増やしてもトラブルもそれに合わせて増えていきます。そこは急がなくてもいいのではありませんか?」

「確かにそうだな。まあ、まだ想像でしかなかったが、逸る気持ちは無くした方がいいな。ゆっくりと発展させていこう」

「その方がいいかと」


 ガッシュはこうして俺を止めてくれて、冷静な思考を取り戻させてくれる。マリンに土地の整地作業ばかりをやらせるわけにもいかないし、そのせいでここからいなくなったら、困るのは俺だしな。それに、マリンの家もまだないわけだし。

 ひとまず、マリンの家はアリスと共同で住んでもらうということで、納得してもらった。更に人が増えたら、すぐにでももう一軒建てる必要があるが、それよりも納屋を建てて、収穫した作物を保存できるようにしておきたい。それまでは二人で一軒を使ってもらうことになる申し訳なさもあるが、二人して理解してくれているのはかなり大きい。

 今は、俺の家に置いてあるだけで、これではネズミに齧られることもあるだろう。流石にネズミ対策で一人を見張りにつけるなんてことは出来ないし、猫もこの辺りでは見かけない。ネズミ対策に猫を飼うのはかなり楽だが、猫がいないのだから諦めるしかない。


「とはいえ、これで次の収穫では更に多くの作物がとれるな。アリスの負担が増えるが、今俺たちが売り物にできるのは作物だけだからなあ」

「この地には希少資源が埋まっているなんて話も聞いたことはないですからね。地道に農耕で稼ぐしかありません」


 ガッシュも俺に同意してくれる。もっと簡単に稼げる手段、例えば鉱脈を見つけるなんてことがあれば、事情は大きく変わるわけだが、そんな運を持ち合わせているとは思っていないし、そんな運がたとえあったとしても鉱脈探しに人員を割けるというわけもない。

 村長の次男と奴隷と魔法使いでは何かの工芸品を作り出せるというわけでもない。職人も欲しいが、職人こそこんな場所には来ない。

 狩猟なんて考えたが、この辺りは小動物ばかりで大型の動物を狩ろうとするには更に森の奥深くに入って、行き帰りで数日必要となる。やはり割に合わない。


「まあ、今の状態でもわたしたちが生きていける程度には森の恵みも作物もありますから。のんびり発展させていきましょう」

「すまないなあ、アリス。アリスだけが頼りだ。いなければこんな開拓地、すぐにでも崩壊するだろうからな」

「もちろん、頑張らせてもらいますよ。むしろ、ここにきてからの方が楽しくて仕方ないんです」


 アリスは可愛らしく力こぶをつくって、見せてくれた。一応俺がここのリーダーとして、責任ある立場ではあるが、その緊張を忘れさせてくれたのだった。

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