第13話 付与魔法の価値
「な、なんだこれ?」
プラプラと根っこを揺らしてアピールする。これの説明をしてもらわなければならない。
それはあまりにも俺の見た物質の中で異質なものであった。それでありながらしっかりと樹木としての質感は感じ取れるのであり、脳みそがバグってしまう。
「何って、付与魔法よ。あたしだって魔法使いなんだからそれくらいは出来るわよ」
「いや、そうじゃなくてどんな魔法をかけたのか気になって」
「知ってどうするっていうのよ。『軟化』と『軽量化』の二つよ。そうすれば切り株も簡単にするりと抜くことが出来るというわけね。まあ、切り株に使ったのは初めてだからどうなるかはやってからのお楽しみだったけど、成功したから万事オッケーって感じで。ほら、さっさと次をやるわよ」
なるほど、それで根っこはこんなフニャフニャになっているというわけか。だが、こうなればそれはそれで使い道に困るようなものではある。木材としての使い方ができなくなり、この柔らかいものを何に使えば良いだろうか。燃料くらいしか思い浮かばず、俺の身長ほどの樹木を全て薪にするのはもったいなく思えて仕方がない。
「ああ、それなら簡易付与だから数時間で効果がなくなって元の硬さの切り株に戻るわよ」
「す、すごいな。今まで苦労していたことがこんな簡単に終わるなんて。なんで鍛冶屋を追い出されるんだ」
なんてことないように言っているマリンに尊敬に近い念を持ってしまった。
そのためか、あまり触れてはいけないだろうことについて、ついうっかりこぼしてしまった。マリンはそれをちゃんと聞いていたらしくこちらをじっと見つめていて、その目線に耐えられなくなってしまい、俺は頭を下げる。これで足りなければ土下座もするつもりであった。
だが、彼女から頭を上げて欲しいと言われて、ゆっくりと頭を上げる。別に怒っているというわけではないらしい。むしろ痛いところをつかれたと苦い顔をしていた。だが、それは俺を責める理由にはならないというわけか。
「あたしね、剣につけるような付与が使えないのよ。なんでだかね。特に、切れ味を上昇させるような付与が一切出来なくてね。他の付与がいくら出来ようとも、攻撃能力が他の付与された武器より数倍も劣るんだったら、どんな鍛治師もあたしを追い出したわ」
「技術が違ったりするのか? そのタイプの付与が特別難しいとか」
「そんなことないでしょ。あたしよりも落ちこぼれみたいな奴はむしろ、それだけしか出来ないなんて人もいるのよ。なのにそれよりも成績が優秀なあたしはそれだけが出来ないの。どれだけたくさんの種類の付与を使えても、その一つで付与魔法使いの価値は決まって、社会にでたら、いらないもの扱いされちゃったってわけ。だから、こんな使えない付与でもキャッキャしてくれるあなたには感謝しているわ」
なるほど、そんな評価軸で付与魔法使いというのは見られるのか。より武器として強い付与が出来るか。それだけを見られる世界なのだろう。
子供の頃は魔法使いになりたいなんて憧れていたものだが、そこまで戦いに関する能力のみでしか評価されないなら、そんなに羨むような世界ではなさそうだと思った。
「まあ、ここは戦闘力なんかは塵芥より価値がないからな。獣も一番大きくてシカくらいだ。だからここでは、より豊かに出来るほうが偉い。だから、マリンさんの付与魔法であればいくらでも使って欲しいと頼み込むさ。早速だけど、あとはどれくらいの切り株にその魔法を使えるんだ」
せっかくこの開拓地にきたのだから、過去のそう言った評価を忘れて、俺たちにとってどれほど重宝されるものかと教え込まないといけないと、使命感に駆られるのであった。
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