第12話 付与魔法の力

 開拓地へと戻ってきた。数日程度しか離れていないため変化があるわけでもなく、それでも自分の家に帰ってきたのだと、落ち着く。なんだかんだ、この地のことを気に入り出して来ていた。まあ、自分たちの手で一から拓いているわけだから、それも当たり前ではあるか。


「本当に何もないのね。家と畑だけじゃないの。あなた、よくこんな土地に住もうと思ったわね。植物魔法なんて馬鹿にされる魔法でも、それさえ我慢すれば一応雇ってくれるところはあったんじゃない?」

「街から離れたくて逃げるように森の中を歩いてたらここに辿り着いたようなものですから。運命だったのでしょう」


 俺たちはマリンを連れて帰ってきた。魔法使いが二人もいる開拓地なんて、このぐらいであろう。こんな田舎には基本的には寄り付かないからな。魔法使いは都市と戦場にしか存在しないと言われるほどなのだ。

 ガッシュはどうやら外に出て採集をしてくれているのかと思い、それほど静まり返った開拓地であったが、ガサガサと向こうの茂みから物音がして、すぐにガッシュが現れた。


「ご主人様方、おかえりなさいませ。おや、その方は新たな住人ですか?」

「ああ、付与魔法使いのマリンさんだ。とはいえ、雑用とかを主にやってもらうことになるだろうからよろしく頼むな」

「かしこまりました。マリン様、よろしくお願いします」

「ええ、一緒に頑張りましょう。ここにいるので全員なのよね。いやはや、よくやるわね。そりゃ、次男以降の村の男たちはバタバタ死ぬわ。生き残るようなのも冒険者として生活できるようなある種選ばれた人種だものね」


 マリンは俺の顔を見て憐んでいるようであったが、そんな目ではよく見られていた。今更どう思われようとも気にしない。むしろ、他の男たちよりもより有利な環境にいることは間違いない。一人はおまけとしても、植物魔法使いがいるという最大のメリットがある。

 世界で一番運がいい人間を探せば俺なのは間違いない。俺の才能なんてものはなく、ただ、周りにいる人間に恵まれているだけなのだ。この気持ちを忘れないようにしなければならない。これは俺の実力ではないと強く意識する。


「どうしましたか、フーマさん」

「いや、なんでもない」


 その筆頭であったアリスのことを見ていたら、気づかれてしまった。慌てたように視線を逸らしてしまった、余計に変な感じになってしまう。

 さて、気持ちを切り替えるとしよう。街から早くに帰って来れて、少し余裕があるので畑を広げる作業をするとしよう、そうしよう。そのための切り株を引っこ抜く作業があるのだが、ガッシュ一人では出来るわけもなく、放置されていた。

 アリスは近くの野草を採集に行ってもらって、マリンを含めた三人で行う。女性一人追加された程度でしかないが、二人より三人の方が間違いなく楽になるはずだ。


「こんなガッチリ固定されているものを引っこ抜くなんて馬鹿げてない? 少し待ちなさい」


 マリンはぶつぶつと何かを呟くと、持っているステッキで軽く切り株をこづいた。するときらりと切り株が一瞬だけ光る。

 何が起きるかと見ていたがそれだけであって、なんだか拍子抜けであった。


「これでいいわ。引き抜くわよ。別に付与魔法なんて、想像するような派手な現象は起こせないわよ」


 俺の感想は簡単に筒抜けであったらしく、そう注意された。やはり魔法使いの基本的なイメージが派手なものばかりであるせいだろう。特に付与魔法なんて聞いたこともないのだから、どんなものかわからないのだ。

 スコップを取りに行こうとするガッシュを呼び止めて、無理やりに抜こうとする。無理だと言っても、マリンは大丈夫と言って聞かずに頑固である。仕方なく男二人でそれに付き合うとすることにしたのである。

 すると、切り株は簡単に引き抜けた。根が地面と絡まって抜くのはそう簡単ではなく、少しずつ掘りながら行なっていくのだが、そんな必要すらもなく、するりと地面から抜ける。

 根っこはぶらぶらとロープか何かのように柔らかくなっており、木の硬さを失っていた。間違いなく魔法の力であり、マリンの優秀さを実感すると共に、彼女がどうして追い出されたのか全く理解できなかった。

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