第9話 初めての街

 街を守る門の前に到着した。衛兵たちに荷物と身分証を見せて、俺たちは難なく街の中に入ることができた。これで別の領地からの旅行者だったり、戦時中であれば通行料が発生するのだが、今は平和な世の中であるためにそんなことはない。

 街中は大きな建物が建ち並び、俺は辺りをキョロキョロを見回しながら、目的地まで向かう。見るもの全てが新鮮で、どこを見ても飽きることがなかった。


「フーマさん。それじゃあお上りさんすぎますよ。もう少し落ち着いてください」

「いやいや、今まで村の中での生活だったから、人の賑わいとか、隙間なく建物が並んでいる様とか、全部が初めてなんだよ。少しは田舎者でいさせてくれよ」

「もう、仕方ないですね」


 アリスは顔を赤くして恥ずかしそうではあったが、それ以上注意してくることはなくなり、俺の三歩後ろをコソコソとついてくるだけであった。


「アリス、あの女の人が少し露出が多めの格好をして店への呼び込みをしているが、あれはなんの店だ?」

「えーと、最近都市部でも話題になりつつあった少女カフェとかいうお店だったと思います」

「なんだそれ?」

「若くて可愛らしい女の子を集めて衣装を着せて接客するお店です。ちなみに、そういういかがわしいことは出来ないですからね。あと、お金もありませんからそういうお店に行くのも禁止ですからね。わかりましたね」


 ずいっと顔を近づけて、ものすごい形相で忠告してくるので、俺は大人しく頷く。別にそんな店に行くつもりもなかったし、変わった店があったから聞いてみただけだったのに、俺はアリスからそんな風に見られていたということなのだろうか。そんなにエロいことばかり考えてそうな顔でもしていただろうか。

 そうして、顔をほぐしてそんな表情をしないように気をつけていると、目的地である商業ギルドに到着した。街で商売をしたり、商品をこの街に卸すにはここを通さなくてはならない。商人たちを束ねているギルドだから、足元を掬われる可能性もあって、非常に恐ろしいが、そうでもしなくては開拓地の更なる発展などない。恐怖に打ち勝ち、俺は扉を開けた。


「あら、見ない顔ですねえ。本日はどのような要件で?」

「この野菜たちを売りたくてね」


 俺は被せていた布を外し野菜を見せる。カウンターの男性はそれらをチラリと視線を向けるだけですぐに俺の方へと戻した。


「ふむふむ、ではうちが八百屋への仲介をするということで買い取りましょうか。それとも、どこかで露店でも開きますか?」


 季節外れの野菜が出てきたことになんの驚きもないのは少しショックだったが、まあ、常日頃からより高価な商品を見ていて、この程度では驚かないのだろう。そう納得する。

 中には、村から持ってきた作物を、自分たちで販売する人たちもいたのだろう。だから露店の提案もしたのだろうが、正直、俺たちには商売のセンスもないし、売り捌くまでここにとどまれる時間もない。俺たちはギルドに仲介してもらうことに決めていた。

 確かに自分たちで売れば、手数料なんかを取られることはないが、それは人手がたくさんいる村だから出来るわけで、三人しかいない開拓地では、逆立ちしても不可能なのであった。


「全てギルドの方で買い取ってください」

「かしこまりました。では一旦預からせていただきますね。品目を書いた紙なんかあると査定が楽なんですけど、あります?」

「あ、どうぞ」


 俺たちは二枚用意していた用紙の一枚を渡した。これで、買い叩かれているかどうか、確認しやすくなっている。これはアリスに言われて確かにと思い、急いで書いて来た。俺は村長の後継の予備だっただけはあり、字を書くことは出来たし、そこばかりは村長家の次男でよかったと思っている。

 買い取り金額が出るまでしばらくかかるとのことだが、残念なことに俺たちはそんなに資金があるわけではないので、大人しく待っていることにする。いつかはこの待ち時間を買い物したりして潰せるようになるといいが、それはいつになることだろうか。

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