第8話 初めての収穫

 収穫の時期になった。本来はそうではないのだが、アリスのおかげで収穫が前倒しになったのだ。

 朝から三人で収穫していく。小さな畑だったのでとうもろこしとトマトの二種だけしか植えていないが、初めての収穫としては上出来なほど綺麗な形をしている。キラキラと輝いているようにすら見えた。やはり自分たちで育てたものはよりよく見えてしまうという、親バカなのだろうか。

 茹でたとうもろこしを昼ごはんとして食べてみれば、しっかりと食べ応えのある出来栄えであり、感動で俺はつい涙を流してしまった程である。

 それを見たアリスはギョッとして、変なものを見るかのような視線を向けていた。確かに、味そのものは子供の頃から食べていたとうもろこしと変わらないし、むしろそれよりも少し物足りないような気さえする。だが、そんなことなどどうでもいいのである。


「ど、どうしたんですか、フーマさん。そんなに泣いて」

「いや、自分たちで開墾して種植えからやってきたからさ。最後はアリスに任せてたけど、それまでは苦労して土だらけになりながら、作業してきて、美味しいなあ、これ。本当に美味しい」

「そうですね、ご主人様。とても美味しいです。私はこの味を一生涯忘れることはないと誓います」


 気づけばガッシュももらい泣きしていた。俺たちは二人で美味い美味いなんて、呟きながら、とうもろこしを食べ続けた。俺たちは単純な男だったのだとそこで強く自覚して、それでもその方が人生は楽しいだろうと開き直ることにした。


「すまなかったな、泣いたりして」

「いえ、いいですよね。わたしはまだ開拓地の一員になりきれていないんだって、少し寂しかったくらいですから。今度はわたしもフーマさんと一緒に泣きながらご飯、食べたいです」


 別に泣く必要はないのだが、一所懸命に仲間になろうと努力している姿は微笑ましい。俺の顔はついつい緩んでしまうというものである。

 俺たちで食べるために保管しておく分を確保して、残りは全て街に売りにいく。そのお金で、鉄製品や新たな作物の種をいくつか購入して、より豊かな暮らしを目指す。目の前の売りに出す作物を見れば、これからの明るい未来は簡単に想像出来てしまうのだ。

 ただ、保存のための建物がないので、次はそれを建てる作業が待っている。出来るだけ早く作ってやらないとネズミなんかに食い尽くされてしまうからな。

 一応、アリスが植物が臭いにおいを出す魔法をかけているので数日は、近寄らないだろうが、その間に用事を済ませておきたい。


「じゃあ、ガッシュ。しばらく留守番を頼むな」

「かしこまりました、ご主人様。ご主人様の方こそ、お気をつけください」


 留守番をガッシュに任せて、俺とアリスで街に作物を持っていく。それに使用するのはここにくる時に、村から食料を運んだりして使っていたリヤカーである。いくつかの籠に分けられた作物を積み込んで、早速街に向けて出発する。

 大体朝から一日中歩いていれば、たどり着く位置にあるので、何事もなければ夜までには着くだろう。

 数ヶ月暮らしていたこの開拓地から、俺は久々に外に出ていくのであった。

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