第6話 魔法使いの面子
木材の伐採には石斧を使っている。鍛治作業ができる人がいないので、石を加工して道具を作るしかない。生活レベルは原始時代に逆行している。
奴隷で鍛治ができる人材ともなれば金額は大きく跳ね上がるので、移住希望者がいてくれるとありがたいのだが、こんな小さな畑と家が一軒しかないような場所に来るわけがないので、今は三人で細々と生活していくしかない。
人類の発展の歴史に感動させられながら斧を振って木を切り倒していく。それでも慣れれば一日に小さな木であれば数本は切り倒せる。土地として活用するために切り株も引っこ抜く必要があるのだが、それはまた次の日として、これを加工していく。その途中で出た枝や葉は薪に使えるので、この間は薪探しに出ることはない。乾燥にしばらく時間が必要ではあるが。
ガッシュには家の建設予定地に穴を掘ってもらう。それが終われば地面を固める作業に移る。それもかなり時間が必要なので、今のうちから始めといてもらう。雨でもびしょびしょにならないような硬さを目指していく。
「終わりました。何かお手伝いをすることってありますか?」
アリスが畑仕事が終わったらしく、手伝いを探しに来たのだが、力仕事が出来そうにも思えない華奢な身体で何をしてもらおうかと悩む。
実際切り倒した木材を運んでもらおうとしたらフラフラとした足取りで危険極まりなかったので、やめてもらった。流石に魔法使いといえども、シンプルな力仕事は性別相当というわけか。まあ、そんなことが気にならないくらいの貢献度ではあるが。
「というか、作業が終わるの早いですね。まだ昼になってないですよ。太陽もまだあそこにありますし」
「魔法使って、あとは水やりくらいですからね。今まで手作業でやっていたことが、短時間で片付いたと思えば、こんなに楽になるんですよ」
めちゃくちゃ優秀じゃんと、思う。魔法使いを雇いたいと思う農場経営者は多いだろう。間違いなく、俺がその一人であれば雇っていたに違いない。
二人が三人に増えただけではない、まさに百人力と言うに相応しい能力に俺は素直に褒めることしかできない。が、それもあまり喜んでいるようには思えなかった。なんというか、しこりがあるように見えたのである。そして、それは当たりであった。
「戦場に立つことができない魔法使いは仲間内で馬鹿にされ、差別されるんです。それぐらい魔法使いにとって敵を撃滅できることが絶対にして最大の価値なんです。その価値観で考えれば、わたしには人権なんて殆どないに等しいんですよ」
「でも、こうして畑作業してくれてますよね? 俺たちはこうして求めて、あなたはそれに応えてくれる。それじゃあダメなんですか?」
「ここが都市部じゃないからですよ、フーマさん。都市部であれば、戦闘を生業とするような仕事をしていない魔法使いの職場に嫌がらせをしてくるなんて話もあります」
「なんでわざわざそんなことを。そんなことに労力を割くなんて無駄じゃないですか?」
「面子、なんだと思います。魔法使いの特権のために、より一般の人と近い仕事はしてはいけないんだと、思います。わたしは多分植物魔法使いなんで、他の魔法使いからは死んだと思われているでしょうね。一月前に都市部から逃げてきましたから。だからわざわざここまで、嫌がらせしにくることはないと思いますけどね」
最後に、俺たちを安心させるようにそう呟くと、果物をとりに行くと言って、森の中へ入って行った。
彼女は都市部にも仲の良い人はいただろうに、その人たちと会えなくなるという覚悟をして出てきたのだとわかった。ならば、ここに辿り着いて良かった。幸せだったと思ってもらわなくてはならない。より一層気持ちを強めるのであった。
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